RSS | ATOM | SEARCH
♪Questo♪Momento♪ 第77番「悪戯好きの風の精」
 今回はヘンデルのリコーダー・ソナタ集を。

 私がヘンデルを聞くようになったのは比較的遅く、古楽をいろいろ聞くようになったあとでも、ヘンデルを積極的に聞くことはありませんでした。
 「水上の音楽」と「王宮の花火」は中学の時に聞きましたが、他というとさっぱりで、また その代表曲2曲も特に好んで聞いていませんでした。
 なんでしょ、平明で楽天的はいいにしても、心に響くところがなく、聞き流しになってしまう感じがしていたのです。

 私がレコード店を辞めて ブラブラしていた時、30歳になる前。一時、中古レコード店で 難ありの安価LPばかりを買っていました。
 お金がない中の楽しみを見つけたわけですね。
 そんな中、とある店先のダンボール箱に無造作に入れられていたLPに、ブリュッヘンによる ヘンデルのリコーダー・ソナタ集 (1967年録音 TELDEC) があったのです。キズありで200円。

 その音楽がわたしの心を捉えました。なんと可愛くて楽しい音楽だろうと。
 これが私のヘンデル開眼となったのです。
 その店の200円LPでは、コレギウム アウレウムによる合奏協奏曲集も。

 リコーダー・ソナタはカセットテープに録音し、当時 頻繁に聞いていました。
 夏、大阪泉南 槇尾山中にある 清水(きよず) の滝へ行くお供として、カセットプレーヤーとともに持っていたことも懐かしき いい思い出です。
 山中のひっそりとした滝の前、マットを敷いて寝転び、滝つぼに足をつけ、リコーダーの音を聞きながらのひと眠りは贅沢そのものでした。

 当時は山に登ると よくひと眠りしていました。金もかからない こんな贅沢をオレは知っているんだ。しかも皆があくせく働いている時に、ってな ちょっとした優越感を感じていました。
 しかしある時 背中を虫に咬まれて、半年くらい痒みが引かないという目に遭ってからは山で寝るのはやめるようになりましたが。
 おそらくダニでしょうね。15分ほど寝ただけで、背骨近辺をきれいに縦に3つ咬まれました。

 閑話休題 −

 ヘンデルのリコーダー・ソナタは HWV.360, 362, 365, 369, 367a, 377 の6曲が知られています。
 その中で ヘンデル生前に出版されたのは 369までの4曲。
 それらは 15曲からなる (種々の独奏楽器のための) ソナタ集 Op.1の第2, 4, 7, 11番にあたるわけですが、そのOp.1はヘンデル自身が出版したわけではありません。
 ロンドンの出版業者ウォルシュが アムステルダムの出版業者を騙って出版したものなのです。
 現代なら著作権の侵害で れっきとした犯罪ですが、当時は著作権の概念がありませんでした。
 そして どうやらこれが売れたたようで、改訂版も出版されたのです。
 それにしても ヘンデルはこのことに関してどういう対応をしたのでしょう。文句のひとつも言えなかった時代ということなのでしょうか。

 残りの2曲は、1948年に サーストン・ダートがケンブリッジのフィッツウィリアム・ミュージアムで自筆譜を見つけたもの。いわゆるフィッツウィリアム・ソナタの第1番と第3番。
 第2番がないのは、ダートが 本来7楽章構成であったニ短調 HWV.367aの最初の5楽章までを第3番とし、残りの2楽章を まったく関係のない他の曲と一緒にして1曲のソナタに仕立て上げ、第2番としたため。現在では第2番を除外して、第1番と 7楽章版の第3番の2曲をフィッツウィリアム・ソナタとしています。
 なお ブリュッヘンは HWV.367aをダートに従って5楽章版で演奏しているものの、第2番を演奏していません。1969年録音ですが、後年だったら 7楽章版で演奏していただろうにと、ちょっと残念です。

 ブリュッヘン盤のライナーノートには、これら6曲は 用いられた紙の検査などから1712年頃の作曲ということが判っている、と 書かれています。だとすると ヘンデル27歳頃、ロンドンに渡った頃ということになりますが、ネットで検索してみると 1724〜26年頃と。それが新しい研究結果なのかもしれません。しかし いずれにしても 作曲の詳しい事情ははっきりと判ってはいないようです。

 さて “ここが好き” は。
 昔から HWV.360の第4楽章:プレストと HWV.362の第2楽章:アレグロ、HWV.365の第1楽章:ラルゲットは私の口笛の重要なレパートリーでした。
 しかし 快速楽章での跳ねるような快活さ、緩徐楽章での歌心溢れる魅力的なメロディは どの曲でも楽しむことができます。逆に言えば、各曲でそれほど大きな個性の違いがあるわけではないといえそう。
 また フルート・ソナタなど他の曲と同曲であることが多いのも特徴的。気に入ったメロディはどんどん転用していますね。面白いと同時に ややこしくもあり。

 取り上げるのは ニ短調 HWV 367aフィッツウィリアム・ソナタ第3番
 ラールゴ,ヴィヴァーチェ,フリオーゾ (プレスト),アダージョ,アッラ ブレーヴェ,アンダンテ,ア テンポ ディ メヌエットの7楽章。
 第2楽章:ヴィヴァーチェ (3/2拍子) はホーンパイプで、「水上の音楽」 のそれを思い出させるもの。
 第5楽章:アッラ ブレーヴェ (4/4) は厳粛な雰囲気のあるフーガですが、フェルマータの後に 3小節ながら激情的なコーダ (スコアの音符自体は簡素ですが)。
 第一発見者であるダートがこれを見た時の驚きようは想像に難くありません。だからこそ そのあとの2曲を別の曲に転用し、無理やり これを終曲にしてしまったのだと思います。

  “ここが好き” は第3楽章のフリオーゾ (4/4) にいたしましょう。
 伴奏と一丸となっての速くてすばしっこいパッセージは嵐のよう。いや、長調で明るい曲調、リコーダーの響きは可愛いので 悪戯好きの風の精というところ。
 イタリア・バロック・オペラのアリアも思い出させたり。
 またリコーダー奏者のテクニックの見せどころでもあります。

author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 11:45
comments(0), -