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メルマガ2010/12/23 蝙蝠牽強付会
 ●●蝙蝠牽強付会●●

 ショップ・オープン前、ブログにのめり込んでおり たくさんの
クラシック・ファンとの交流を楽しんでいたのですが(今も残しているブログ
patatrac! ではなく、その前にやっていたもの)、そこでヨハン・シュトラウス
のオペレッタ「こうもり」の あるDVD映像の感想を書いた時、ある方が
このオペレッタについて「どこまでもバカバカしいストーリーと、楽しい音楽
ですね」とおっしゃいました。

 私はとりあえず同意したのですが、同時に 以前からこのオペラのストーリー
について感じていたちょっとした疑問を調べてみようと思い立ったのです。

 というのも、この一見お気楽に感じられるストーリーには政治批判が含まれて
いるのではないか、ということ。

 その時の“研究結果”をブンテでも紹介いたします♪
 とはいえ、新たな考えによる追加や削除があり、内容は結構変わっており
ます。

 私が政治批判を感じたのは ここの部分がキッカケ。

 第2幕フィナーレのオルロフスキーらによる歌。

  ブドウが火のごとく噴き出せば 天上の世界がきらめく 
  国王や皇帝は名誉を愛し それ以外の者はブドウの甘い汁を愛する
  声を合わせて酒の王をたたえよう その地位は国中に認められている
  シャンパンは最高のものとして歓呼を受ける
  シャンパンは多くの苦しみを流し去る 賢王は国民を渇えさせない
  杯をふれ合わせよ! 王たるシャンパン万歳!

 これはひょっとすると、皇帝はわれわれを潤おしてくれないという皮肉では
ないのか? そう思ったのです。

 そうなると、第1幕フィナーレのアルフレートの歌

  さあ、グッと飲もう! 飲めば目も澄んでくる
  すべてのものが真の姿で見えてくる
  熱い恋も夢 われわれを欺くもの  永遠の誠も泡と消え去るもの
  喜びが幻のごとく失せる時 慰めを与えるのもこそ 酒なのだ
  もはや帰らぬことを忘れてしまえる者は幸いなり

 も、一見 色恋の話のようでありながら、現世の憂さへの嘆きの裏返しに
聞こえてきます。


 このオペレッタの時代と場所の設定は、19世紀半ばのオーストリア。
 シュトラウスがまさにこの曲を書いた時代と場所ということになりますね
(1874年ヴィーン初演)。

 作曲当時のオーストリア情勢が知りたいと、高校の時使っていた世界史の
教科書(今でも持っているんです)や、ネットで検索したものなどを参考に
してみますと ----

 まず19世紀中葉のヨーロッパは、フランス革命以前の状態を復活させ
大国の勢力均衡を図ったウィーン体制打破を目的とする自由主義・国民主義が
活発化していたという状況でした。
 その上 当時のオーストリア帝国は、プロシア(ドイツ)との戦争など
いくつかの戦争に敗北、またロシア帝国との関係を悪化させて、弱体化・孤立
化していたようです。
 加えて多民族国家であるオーストリア帝国内の諸民族は、自治・権利を獲得
するための運動を活発化させていました。
 連邦国家への改変を求める声が諸民族からあがっていましたが、権利を失い
たくない支配者階級のドイツ人の抵抗と、国色の変化を恐れた皇帝の反対も
あり、マジャル人(ハンガリー人)と協力して、帝国内の諸民族を抑えること
にしたのです。1867年「オーストリア・ハンガリー帝国」の誕生。

 そして1873年には歴史上初の世界恐慌。
 当時世界経済の覇権国だったイギリスで穀物価格の暴落が発生し、ウィーン
の株式市場が大暴落。ヨーロッパやアメリカの株式市場に連鎖していきました。

 やはり相当不安定な社会情勢であったようですね。
 そうした先行きの見えない不安や不満を、ひょっとすると「こうもり」の
登場人物は代弁しているのではないでしょうか。


 支配者層であったドイツ人アイゼンシュタイン(地主?銀行家?)は
オルロフスキーのパーティーで、ハンガリーの貴婦人を口説き落とそうと必死。
 それが変装した妻ローザリンデであることも知らずに。
 しかし当然ながらうまくいかず、それどころか大事な懐中時計を取られて
しまうという散々な結果。
 そしてラスト・シーン、浮気心がばれたアイゼンシュタインは妻に膝を屈し、
許しを乞います。「シャンパンのせいなのだ」と。

 このこともひょっとすると、ドイツ人支配維持のためにハンガリーと手を
結んだことへの非難を意味しているのかも。

 反対に、第2幕フィナーレの「シャンパン万歳」に続いて、ファルケを
中心に歌われる

  兄弟となりましょう、姉妹となりましょう、すべての人たち
  一緒に歌いましょう 親しい仲となりましょう
  今日と同じように いつまでも 明日もまたこのことを忘れずに!
  まずキスを そして親しく呼び合いましょう

 は、オーストリア内の諸民族、あるいは他の国々への呼びかけでは?
 この部分は このオペレッタの中で最も優しく美しく、唯一まじめに歌われる
ところ。

 台本作家(ハフナーとジュネ)とシュトラウスは このオペレッタに、政治
批判と 諸民族との平等な関係にもとづく連邦国家への改変支持を込めたの
では…。

 私の妄想はなおも、こうもりのように暗穴をひらひらと飛び回るのです。

 ***
 
 2010年の(隔)週刊ファルスタッフは今号にて最後です。
 ショップ同様、一年お世話になりました。
 また来年もどうぞよろしくお願いいたします。

 少し早いですが、皆様 よいお年をお迎えくださいませ♪♪♪ 

 1月1日新春号と新春セールをお楽しみに〜〜〜☆☆
author:, category:MELUMAGA-2010-II〜, 15:11
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