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♪Questo♪Momento♪ 第5番「悪魔との格闘」
 シューベルトの2曲のピアノ三重奏曲といえば、第2番変ホ長調D.929(Op.100) よりも 第1番変ロ長調D.898(Op.99) のほうが有名ですね。
 そのことは分かっていましたが、第1番はウィキペディアに掲載があるのに対し 第2番はないことをみると、認知度の差は私が思っている以上なのかもしれません。

 私は第1番ももちろん好きなのですが、第2番は古今の室内楽曲の中でも最も好きな曲のひとつですので、オドロキでした。

 とはいえ 私は若い頃、シューベルトの民謡的なメロディや、ジメジメとしたセンティメンタリズムが苦手でした。
 しかし15年ほど前 (30歳頃)、仕事 (レコード店勤めです) がうまくいかず退職、2年ほど仕事をせず 人生を見つめなおしていたのですが、その時にシューベルトの晩年の音楽には、苦悩や恐怖、狂気までもがあることに気づき、ショックを受けました。
 自分の挫折・失意の中で、突然それらが見えたのです。

 そんな中、ピアノ三重奏曲第2番は特に心を捉えたもののひとつでした。
 ベートーヴェンのような堂々とした大曲を書くのだという意気込みの一方で、狂気寸前の精神状態がある。
 一見快活な第1楽章:アッレグロも情緒は不安定ですぐに崩れそうになりますし、展開部は暗く不気味。未完成交響曲の冒頭を思わせる低音主題が死の影のように付きまとっています。

 第2楽章:アンダンテ コン モート、ピアノで刻まれるリズムは死を求めてさまよう歩み、チェロは嘆きの歌。
 第3楽章:スケルツァンドは3拍子、弱音による音楽はピアノと弦楽がずれているようで、ふわふわとして不確か、不思議な情緒。
 うつろな夢のよう。恋のダンスの思い出?
 地団太を踏むような、不細工なトリオ。

 そして、第4楽章:アレグロ モデラート (ソナタ風ロンド?)。
 のんきな主題で始まりますが、すぐに忍び寄る暗い影。

 第2楽章の陰鬱な主題のヴァリアントのようなメロディが小刻みの音形で現われますが、やがて小刻み音形を脱して 不安な情緒を感じさせずに盛り上がりを形作る。

 ところがそれは突然止み、また小刻み音形がピアノで現われる。
 特に好きなところはここ!
 まるで鼓動の高鳴り、焦燥感。形のない恐怖が襲う。
 私は死へ導こうとする悪魔と格闘しながら書くシューベルトを感じるのです。

 狂気を爆発させそうになりながらも なんとかこらえ、明るく輝かしいフィナーレを作ろうとするシューベルト。
 しかし第2楽章の陰鬱な主題そのものも回帰。

 紆余曲折ののち、最後の最後で強引に長調に転じ、半ば無理やり明るく曲を終えるのです。


 初演、あるいはそれに近い演奏会でこの曲を聞いたシューマンは、こう評しています。
 「活動的、弾性的、劇的。第1楽章は激しい怒りと熱烈な憧れで雄弁である。アンダンテは悲しみが精神的な苦悩へと高まる。スケルツォは変ロ長調 (第1番) ととても似ているが、私ならそちらをとる。終楽章はどちらかを選ぼうとは思わない」

 「どちらかを選ぼうとは思わない」は、甲乙つけがたいほど どちらも素晴らしいという意味にもとれますが、賛辞の言葉がないところをみると やはりどちらもたいしたことはないと解するのが妥当でしょう。
 となると、シューマンは前半2楽章を評価していたということになりますね。

 確かにシューベルトには、前半2楽章で書きたいことを出し尽くしてしまって後半尻すぼみ という曲が少なくないと思います。
 しかしこの曲はそうではなく、私は全曲スゴイと感じていますので、なんとも皮肉なものです。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 13:18
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-, 2011/12/08 12:31 PM
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-, 2011/12/08 4:28 PM