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いろとりどりの歌 第20曲「夜をこめて」

 第20曲は 百人一首第六十二番
 ≪夜をこめて鳥のそら音ははかるともよに逢坂の関は許さじ≫ 清少納言 (後拾遺集・雑)

 さて、清原元輔の娘 清少納言の歌を。
 私が百人一首の中で最も好きな歌のひとつです。
 
 贈答の歌ということで、後拾遺集にある詞書が大変長い。
 −大納言行成物語などし侍りけるに 内の御物忌にこもればとて いそぎ帰りてつとめて 鳥の声にもよほされてといひおこせて侍りければ 夜深かりける鳥の声は函谷関のことにやといひつかはしたりけるを 立ち帰りこれは逢坂の関に侍るとあれば よみ侍りける

 「枕草子」にもこの話のことが書かれており、それも参考にしてみますと。
 清少納言の仕えていた中宮定子が 中宮職に設けられた臨時の御座所にお住まいであった頃の話。
 まだ左中弁で蔵人頭であった藤原行成が ある晩 清少納言のもとを訪れ、あれこれと話をしていました。
 清少納言は 当然 彼が泊まっていくものと思っていましたが、行成は「今夜は宮中の物忌(ものいみ) にこもらなくてはならないから」と言って、夜中にそそくさと帰っていったのです。

 翌朝、行成からの手紙。
 「鳥の声にもよおされて帰りましたが、その後あなたはどのように過ごされただろうと とても気になっておりました」

 清少納言は手紙を返します。−が、お気遣いありがとう などと素直には書かない。
 「夜中に鳴く鳥とは函谷関のことですか」と。
 
 函谷関(かんこくかん) の鳥の鳴き声というのは、中国の史記にある孟嘗君(もうしょうくん) の話。
 秦に捕まっていた孟嘗君が函谷関まで逃れてきたものの、その関所は一番鶏が鳴くまでは閉じられている。そこで孟嘗君は鶏の鳴き真似のうまい部下に鳴き真似をさせて 門を開けさせ、逃れることができたというもの。

 つまり、夜中に鳥なんか鳴かないわよ、この嘘つき!と怒りをぶつけるのではなく、とぼけながら やんわりとなじったわけですね。

 するとまた行成から手紙が。
 「函谷関ではなく、逢坂の関ですよ。」
 つまり、私とあなたとの逢瀬 (逢ふ坂) のことですよ と。
 ロマンティックなことを言って、追及をはぐらかそうとした。

 そこで清少納言はこの歌を送ったのです。
 = たとえ夜中に 鳥のうそ鳴きでだまそうとしても 逢坂の関の門は開きませんよ=

 お見事、ウマイ!

 行成はふられてしまいました。
 しかし <逢坂は人越えやすき関なれば鳥鳴かぬにも明けて待つとか> と返したとのことです。

 この恋のかけ引き、最高です。

 清少納言の知性、気位(きぐらい)、洒落っ気!
 まさに当代随一のエッセイストという感じがします。

 それにしても行成はなぜ帰ってしまったのでしょう。翌日の手紙からすると その気はあるようなのに。
 話をしているうちに 6歳ほど年上の才媛に恐れをなし、ひとまず撤退したのか。
 あるいは 実は他の女と約束があったのか。

 いやまぁ、ともかく面白いです。


 清少納言は966年頃の生まれ。
 981年頃、陸奥守 橘則光と結婚するも やがて離婚。
 そして 一条天皇の時代 (993年頃)、中宮定子に仕えました。
 博学で才気煥発な彼女は定子の恩寵を受け、宮中にその名を馳せましたが、長保2年(1000) 中宮定子が出産時に亡くなると、まもなく宮仕えを辞めました。
 その後の消息はほとんど不明。
 摂津守 藤原棟世との再婚は宮仕え後のことでしょうか。
 没年は一説には1025年頃とされているようです。

 また、なぜ彼女が “清少納言” と呼ばれるか よく解っていないようです。
 “清” は “清原” の “清” ですが、夫は少納言でなく、親族にも少納言であったものは確認できないとのこと。
 さらには本名 (下の名前) も不明。

 紫式部 (「めぐりあひて」) が「紫式部日記」で清少納言のことをボロカス書いていることもあって、ふたりのライヴァル関係はよく取りざたされますが、紫式部が中宮彰子に仕えたのは 清少納言が宮仕えを退いた後のことで、ふたりは面識がなかっただろうとされています。
 清少納言のほうは紫式部のことを何も書いていないことと合致しますね。

 一方 藤原行成は 天禄3年(972) - 万寿4年(1028)。藤原義孝の長男で、官位は正二位・権大納言。
 能書家として高名で、小野道風、藤原佐理とともに三蹟のひとりに数えられています。

 また 父 藤原義孝の「君がため惜しからざりし…」は百人一首に採られています。

author:, category:いろとりどりの歌(百人一首鑑賞), 23:33
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