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♪Questo♪Momento♪ 第13番「彼女は彼が亡霊であることを知った」
 「少年の魔法の角笛 Des Knaben Wunderhorn」は、アルニムとブレンターノが収集したドイツの民衆歌謡の詩集。3巻からなり、1806年から1808年に出版されました。

 マーラーはそこから気に入ったものをピックアップし 順次作曲、1899年に12曲まとめたものを、ピアノ伴奏版とオーケストラ伴奏版両方で出版しました。
 しかしその後 新たに「死んだ鼓手」と「少年鼓手」を作曲。

 「3人の天使は歌った」は交響曲第3番に 「原光」は交響曲第2番に転用されたため、現在では その2曲を省いた12曲、あるいは「原光」を含めた13曲で演奏されることが多いようです。

 マーラーは詩集と同名のタイトルをつけましたが、なぜか日本では マーラーの作品は「子供の不思議な角笛」と呼ぶのが一般的になっていますね。

 この歌曲集は 一貫したストーリーを持たせているわけではなく 寄せ集め的 (そのため演奏順序が自由) 。民衆の男女の機微や、苦悩・悲惨さ、あるいは風刺的な詩が諧謔的に、時にブラック・ユーモアで表現されています。
 そこが ともかく陰鬱な「さすらう若人」「亡き児」、あるいはリュッケルトとは違ったところで、この曲集独自の面白さ。

 しかし民衆の生よりも、苦悩・死のほうによりウェイトが置かれているようで、やはりここでもマーラーの「死」への強い関心を感じさせます。
 特に「この世の生活 Das Irdische Leben」は、子供の餓死を、スケルツォ的な音楽によってコミカルに描いており、初めて聞いた時はちょっとした衝撃でした。

 しかし多く出てくるのは兵士。ともかく兵士の苦悶や死に共感を感じたようで、後に追加された「死んだ鼓手 (レヴェルゲ)」と「少年鼓手」はいずれも行進曲風に 戦争での死を描いています。
 2曲は対を成しているよう。

 「番兵の夜の歌」にも行進曲風のリズム、兵士の苦悩が。しかしこちらは恋人の幻影が出てくる二重唱。
 兵士ではないながら「塔の中の囚人の歌」も恋人の幻影との二重唱。
 これも対になっているようです。

 「不幸な時のなぐさめ」(これも軽騎兵が出てくる) と「無駄な骨折り」は、ともに男女による滑稽な二重唱。
 「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」と「高き知性への賛歌」は、ともに動物を登場させた風刺の歌。
 あるいは「この世の生活」と「3人の天使が歌った」での現世と天上の対比。

 …おっと、「百人一首」でセット探しがクセになっているようです。


 どれも面白い曲ですが、最も印象深い曲は「トランペットが美しく鳴り響くところ Wo die schönen Trompeten blasen 」。
 ここには諧謔はなし。ずっと静かで穏やかな曲調です。

 “朝ぼらけ”、寝ていた彼女を訪ねてきたのは、戦場に行っていたはずの恋人。
 彼女は喜んで彼を迎え入れる。
 しかし彼に手を差し出したところで 彼女は泣き出した。
 彼が現世のものでないことに気づいたから。

 それでも 愛の言葉とともに 結婚の約束をする彼。
 
 そして最後の詩が、
 <ぼくは戦場に行く 緑の荒野へ 緑の荒野はとても遠い!
 トランペットが美しく鳴り響くところ そこがぼくの家 緑の草のぼくの家!>

 静かで寂しいトランペットの音は、墓に鳴り響く弔いのメロディなのでしょう。
 亡霊は自分の死を知っているよう。
 それでも彼は彼女を迎えに来たのです。

 不気味な静けさが心に染み入ってき、また なんとも言えない情緒を起こさせる曲です。


 この曲の中で最も印象的な部分は、彼が亡霊であることを彼女が知る部分でしょう。

  Das Mädchen fing zu weinen an 娘は泣きはじめた

 クレッシェンドは weinen (泣く) の「ヴァ」を頂点とし、その語が長く伸ばされる間にデクレッシェンド。
 一瞬時間が止まって 会話は途切れ、弔いの音が響く中、遠いはずのサヨナキドリの鳴き声が大きくなります。

 管弦楽版では このサヨナキドリがオーボエで奏されるのですが、滑稽に聞こえるのが面白いところ。ピアノ版はそんなことないのですが。


 曲順は録音によってさまざまですが、セル,シュヴァルツコップ,フィッシャー-ディースカウ盤 (EMI) のように最後に置かれるのがベストと思っています。
 スコアの順序通りですと、この曲の次に 快活で滑稽な音楽評論家批判「高き知性への賛歌」が来るのですが、どうも気分の立て直しがすぐにできないんですよね。

 どの歌を男声・女声どちらで歌うかも多少の違いがあるようですが、セル盤では、通常 女声のみによって歌われる「トランペットが美しく鳴り響くところ」の “彼” の部分をF-ディースカウに歌わせています。
 しかし これだと、彼女役の女声が 語りの部分も歌うということになる。全部女声の方がよりしぜんですよねぇ。
 歌を振り分けたいきさつを知りたいものです。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 15:44
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