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♪Questo♪Momento♪ 第16番「ないないづくしの幸福」
 今回はガーシュウィンのオペラ「ポーギーとベス」を。

 大好きなラトル指揮のDVD。そのライナーノートで 評論家 石井宏氏は
<単に20世紀のアメリカが生んだ傑作であるばかりではなく、人類の遺産と呼び得るような偉大な作品である。それは、奴隷制度から解放されたとはいえ、なお差別と偏見、そして無教育と貧困の中に生きることを強いられていた20世紀初頭のアメリカ南部の黒人たちが精一杯に生きている姿を描いて、観る者を感動させる。それはまた単なる悲劇でも喜劇でもなく、この世のすぐれた芸術作品がみなそうであるように、人間の全存在に迫る感動を持った劇であり…> とし、そのあと ガーシュウィンの音楽の絶賛が続いています。
 まったく同感です。

 娼婦で 乱暴者クラウンの情婦ベス。クラウンが殺人を犯して逃げてしまい、残された彼女の匿ったのが 足の悪い乞食のポーギー。
 ふたりは愛し合うようになり、ベスも貧しいながら平穏な生活に幸せを見出すようになったが、やがてクラウンが戻ってきた。待ち構えていたポーギーは彼を殺害。警察には犯人とバレなかったものの参考人として連行される。
 再びひとりとなってしまったベスに白い粉末を与え、ニュー ヨークへと誘うヤクの売人スポーティング ライフ。
 1週間後 ポーギーは釈放されて戻ってきたが、愛するベスがいない。
 ポーギーは足を引きずり、どこにあるかも分からないニュー ヨークへと旅立つ。

 骨格までもいかない背骨の部分だけを書けば そんなストーリー。
 結末らしい結末があるわけではなく、神のもとへの旅路とダブらせ その加護を祈る 明るい調子の合唱でこのオペラは閉じられます。
 ポーギーの辛苦、あるいは最期の時を想像させながら。

 白人社会の身勝手が生んだ悲劇とも言えそうですが、彼らはその片隅 (南部の港町チャールストンのスラム街キャット フィッシュ ロウが主たる舞台) で、喜びも悲しみも強く噛み締めながら、逞しく生きている。
 それは理想的な世界とはかけ離れたものであるにもかかわらず、一面 美しい。
 目をそらしたくなるような醜さとともに、かけがえのない美しさが同居しているのです。

 そしてもちろん ガーシュウィンの見事な音楽! 黒人音楽やジャズを取り入れた その音楽の面白さたるや。
 「サマータイム」をはじめとして、ジャズやポピュラーに編曲され親しまれている曲が このオペラにはどれだけあることでしょう。

 その昔、私が最初に好きになったのは「そうとは限らんぜ It Ain't Necessarily So」。
 キティワ島へのピクニックで、スポーティング ライフによって歌い踊られる不道徳な歌。
 そのノリのいいヤクザな調子をマネし、テキトーな英語でよく歌っていたものです。
 ハイフェッツの編曲によってヴァイオリン曲としても親しまれていますね。

 しかし場面としては第1幕第2場が一番好き。
 クラウンに殺されたロビンズの部屋。その亡骸と妻セリーナ、そして弔問に訪れている仲間たち。

 セリーナが歌う「うちの人は逝ってしまった My Man's Gone Now」は高音を要し、また大変ドラマティックな “アリア”。
 名歌手たちが歌ったらどんなだろう。そんなことを想像したりしてしまいます。

 その後 葬儀屋が来て、とりあえずのあり金でなんとか葬ってもらえることになったところで、葬送行進曲。
 しかしロビンズはジークフリートのような英雄ではないため、次の曲への橋渡しを兼ねた わずかなもの。
 とはいえ ブラスのあとのヴァイオリンの詠嘆が印象的です。

 そして「天国行きの汽車 Oh The Train Is At The Station」となる。ベスが音頭をとって ロビンズを弔う合唱。
 ところがこれが 木琴や手拍子が鳴り響く、リズム感あるノリのいい歌。
 内容を知らず 曲だけ聞いていると、まさか弔いの歌とは想像できないでしょう。文化の違いを感じざるを得ないのですが、それにしてもカッコいい。
 これが第1幕フィナーレの役目を果たしているのです。

 しかしそのあとに 私にとってもっと重要な、いわばテーマソングのような歌があるのです。

 第2幕開幕 ジェイクら漁師たちの歌も好きですが、そのあと、ポーギーによって歌われる歌「オレにはないものばかり I Got Plenty o' Nuttin'」。

  オレには車もない ろばもない 苦労もない
  物持ちはドアに鍵をかけるが オレの家にはない
  ほしいなら床の敷物でも持っていけ
  オレの好きなものは空の星のようにタダのもの
  オレには女がいる 歌がある 見上げれば空がある …

 個人でちっぽけな商売なんかしていると まぁ ため息も多いわけですが、オレにはウルサイ上司もない、毎日満員電車に揺られることもないではないかと。
 税金や保険料は高く なかなか金は残らないが、オレには冬でも暖かい家があるではないか、食べるものに困ることもないではないか、毎日風呂に入れるではないか、好きな時に山に行けるではないかと。
 ベスを得た喜びの中 歌われるポーギーのゴキゲンな貧乏讃歌が、実は自分が充分幸せであることを思い出させてくれるのです。

 まだ勤めていた頃には、また別の歌をテーマソングにしていました。クラシックではなく、ミュージカル映画のための歌なのですが、またいずれ紹介したいと思います。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 10:59
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