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♪Questo♪Momento♪ 第18番「ムンクの幻影」
 シューベルトは私にとって最重要作曲家のひとりでありますが、♪Questo♪Momento♪ 第5番「悪魔との格闘」で ピアノ三重奏曲第2番を取り上げた際に書いたように、若い頃は実は苦手でした。
 そこで書きましたように、仕事をせず人生を見つめなおしていた時に シューベルトの晩年の音楽には 苦悩や恐怖、狂気までもがあることに気づき ショックを受けたのですが、そのキッカケとなったのは 何を隠そう、交響曲第7 (8) 番D.759 (未完成) だったのです。

 第2楽章:アンダンテ コン モート。

 低弦の対旋律を伴って ヴァイオリンで奏される夢のように甘いメロディ (第1主題)。満ち足りた安らぎと穏やかさ。
 コントラバスをはじめとして 弦楽によって奏される下降ピッツィカートの相槌がまた美しい。
 途中 転調で表情にわずかな陰りが見えたりもしますが、充溢を表すような強奏による力強い歩みとなり、またすぐ甘く優しいメロディが帰ってきます。

 ところが弱音のヴァイオリンで奏される不安定な経過句 (「トリスタンとイゾルデ」前奏曲冒頭のテーマを思い出すというと笑われてしまうでしょうか) がわずかに不気味さをかもし出したかと思うと、寂しげな弦楽のさざなみが始まります。
 それに乗って現れるクラリネットによる第2主題。

 特にここが好き!

 第1主題のヴァリエイションのようなメロディ。これも夢のように甘く柔らかなのですが、なんとも寂しく 切ない。胸を締めつけます。
 そのメロディにずっと浸っていたいと思うのですが、糸を引くようなディミヌエンドで長調に変化し、安らぎの様相を見せると、名残惜しくもスーッと消え入ってしまう。
 しかし長調へと変化した美しいメロディは、幸いオーボエによって引き継がれます。
 たまらない美しさです。

 音形は上向きになり、ちょっとした感情の盛り上がりを作るものの、それもつかの間 フルートとの呼応のうちにゆっくりと勢いを弱めていきます。

 突然 短調での悲劇的なトゥッティ。夢のような気分は一気に壊されます。その厳かで威圧的な恐怖! ティンパニが雷鳴のように轟き、チェロが嵐のように逆巻きます。

 しかしまもなく落ち着いて第2主題のヴァリエイションがコントラバスで現れ、ヴァイオリンと優しく絡み合いながら、やるせない感情を穏やかに高ぶらせ、またひとつのピークを作っていきます。
 このコントラバスのメロディの開始部分、「あたかも地下から聞こえてくるよう」とワインガルトナーが評した第1楽章の前奏を思い出させます。

 コントラバスとヴァイオリンの絡みによる高ぶりは、ホルンと管楽器の短い音形の呼応で落ち着いていき、再現部。
 第2主題ではクラリネットとオーボエが主従逆になって現れるのが また絶妙です。

 コーダがまた、スゴい。
 なんと 弱音のヴァイオリンによって、あの不気味な第2主題への経過句が現われるのです。
 奇妙なメロディは あたかも精神にきしみが生じるかのよう。
 管楽器が甘い第1主題を奏でるものの、ヴァイオリンはまた “変調をきたし” 不気味な雰囲気となる。
 しかしなんとか持ちこたえ、弦楽のピッツィカートを伴って 管楽器が上向きに進み、最後の力を振り絞って サッと消え入るのです。

 恐ろしい曲です。甘く感傷的なメロディに隠された 心の闇、苦悶、狂気の萌芽。
 私はこの曲のスゴさを初めて感じた時、その数年前 奈良に見に行ったエドヴァルド・ムンクがオーヴァーラップしていました。
 暗い背景の中の白い服の女の子、さざなみの海…。


 それにしても、この曲が未完成に終わって本当によかったと思います。
 シューベルトは前半の2つの楽章で (時に長々と) 言いたいこと言い切ってしまって、後半が続かず放棄、あるいは書いたとしても前半の水準にないということが少なくありませんが、この曲も内容の濃い2楽章の内容にふさわしい第3楽章とフィナーレを思いつかなかったのでしょう。
 残されたスケッチから復元された第3楽章:スケルツォを聞くと、その思いを一層強くします。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 22:16
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