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♪Questo♪Momento♪ 第19番「ハチミツより甘いリタルダンド」
 ドイツ語、フランス語ができない者にとっては、歌曲というジャンルは最もとっつきにくいジャンルでありましょう。
 オペラと違って、もっと微妙なニュアンスが込められた小さな詩の世界。
 難しい言葉や言い回しを駆使していることも少なくない。
 それを訳詩で読みながら鑑賞しなければならないわけです。

 モーツァルトやシューベルトのリートには若い時から親しんでいた私、フーゴー・ヴォルフとなると長いこと手つかずの状態でしたが、例の 仕事をしなかった時から徐々に親しむようになってきました。

 きっかけはフィッシャー-ディースカウによるメーリケ歌曲集 (20曲)、ザルツブルク・ライヴのCD (ORFEO) でした。
 その時 メロディが分かりにくいことはまったくないことに初めて気づかされました。ヴォルフはシューベルトやシューマンの後輩だったんだな と。ドビュッシーの歌曲よりもずっと親しみやすいではないか と。
 また思わず吹き出してしまうようなコミカルな歌もあるんですよね。

 フィッシャー-ディースカウは明快で正確な歌、表現の巧みさがあり、解りやすい。
 またライヴということで、その感情表現のノリも活きており、ヴォルフに対して抱いていた陰鬱で小難しいというイメージを見事に払拭してくれたのでした。

 夜を擬人化し、自然の雄大さを歌う「真夜中に Um Mitternacht」。
 忘れたはずの恋人への思いを春に託した「春に Im Frühling」。
 ともに静かな曲調による心に染み入る歌。特に好きな曲です。
 それぞれ夜、春の雰囲気を表すピアノによる短いフレーズの繰り返しが印象的 (「明けがたに In Der Frühe」も同様の特徴を持つ曲です)。

 一方「いましめ Zur Warnung」は、二日酔いの気分を 詩的なインスピレイションの到来と勘違いしてしまう詩人への警告。
 「あばよ Abschied」は評論家への揶揄。自宅を訪れた鬱陶しい評論家を階段から転げ落とした詩人は最後 勝利のワルツを踊ります。
 ともに皮肉とユーモアを最大限に表した痛快な歌。
 F-ディースカウは このリサイタルの最後にこの2曲を持ってきています。

 あるいは「火の騎士 Der Feuerreiter」は、水車小屋の火事に際しての消防士(?) の奮闘ぶりを歌うドラマティックなバラード(バラッド / 民話的・物語的な詩) ですが、4回登場する Hinterm Berg, Hinterm Berg, Brennt es in der Mühle! (山の向こう、水車小屋が燃えてるぞ) は大変印象的なフレーズ。
 私のように聞くたびに頭のこびりつき、思わず歌ってしまう方 少なくないと思います。


 ところで、ヴォルフのリートには 女声によって歌われるほうがふさわしい愛らしい歌も少なくなくありません。
 バーバラ・ボニーの初のソロ・リート・アルバムであった ヴォルフ,R.シュトラウス*リート集 (DG) は、そうした魅力に気づかせてくれた録音です。

 スペイン歌曲集の1曲「私の髪のかげで In dem Schatten Meiner Locken」は --これはボニーよりも前、シュヴァルツコップで知った曲ですが--、自分の髪のかげで寝てしまった彼氏を起こすか起こすまいかという女の子の逡巡。
 ヴォルフは女の子のおちゃめな可愛らしさを見事に音化しています。

 しかし今回 一番好きな曲として取り上げたいのは「少年とみつばち Der knabe und das Immlein」。

 夏の蒸し暑い日、粗末な山小屋で暇をもてあます少年。
 半音階的なメロディが、生気を奪い取るような夏の暑さとダレきった少年の気持ちを表します。
 唯一 元気なのは ひまわりと戯れるみつばち。
 少年が恋焦がれる女の子の家の庭から飛んできたのです。

 音楽は一転 強い憧れを示すような美しいメロディとなり、少年は尋ねます。
 「あの子に遣わされて来たのかい?」
 
 ピアノの高音の細かい動きとトリルが ホバリングするみつばちを表す中、みつばちは答えます。
 「いいえ、言伝はありません。あの子はまだ恋を知らないのです。学校を出たばかりのママっ子なのです。あの子には甘い蜂蜜を届けてあげましょう。さようなら!」

 リタルダンドで 思いっきり感情を込め、訴えるように少年は言います。
 「あの子に伝えてよ Ach, wolltest du ihr sagen
 もっと甘いものを僕が知っていると Ich wüßte, was viel süßer ist
 抱きしめあって くちづけしあうことほど素晴らしいことはないことを!」

 少年の初々しい恋心。とともに最後の部分では 少年の性的興奮。
 蜂と蜂蜜もそれを暗示しているのでしょう。

 “いなかのケルビーノ” に対するヴォルフの眼差し。ひやかす気持ちもありながら、青い生を讃えているようです。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 15:18
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