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いろとりどりの歌 第29曲「なには潟」
 第29曲は 第十九番
 ≪なには潟みじかき芦のふしの間も逢はでこのよを過ぐしてよとや≫ 伊勢 (新古今集・恋)
 = ほんのわずかな間であるにせよ あなたと逢わずに過ごせとおっしゃるのですか =
 少しの間もあなたと離れて過ごすことなどできません ということですね。
 前回は男のほうの情熱的な歌でしたが、これは逆に女の情熱。

 芦は節と節との間が短いところから「難波潟短き芦の節の間」で「ふしの間も (ほんの短い間も)」を言い起こす序詞としています。
 また「このよ」の「よ」は「世の中」という意味とともに 男女の仲という意味があり、さらに節のことも「よ」と言うことから「芦」の縁語となっているとのこと。

 昔の難波(なにわ) の海は今の大阪湾とは違って 入り江がずっと奥深くまでくい込んでおり、干潮時には広大な干潟になるような浅い海で 一面に芦が生い茂っており、名所として知られていました。

 そうした難波の津はまた とある悲話の舞台としても有名でした。

 「芦刈り説話」

 津の国 難波近辺に住んでいた夫婦。
 暮らし向きが悪化したが、男は身分が低いわけではないので人に雇われることもできず、思い悩んでいた。
 お互い見捨てあったりはしないと誓い合いながらも とうとう限界がきて、男は女に京へ上って宮仕えをするように言い、再開を約束して別れた。
 夫のことを恋しく思い出しながらも 京で宮仕えに勤しんでいた女。
 やがて高貴な家に仕えるようになり、そのうちに主人に愛され 妻となった。
 幸福に暮らしながらも 女は津の国の男のことが忘れられない。
 とうとう我慢しきれなくなり、参拝を口実に許しを得て難波に赴き、昔の住まいの辺りに行ってみた。
 しかし家はなくなり、知っている人もいない。
 途方に暮れていると、芦を担いだ乞食のような男が通りかかる。
 従者に近くに寄こさせてみると、やはり昔の夫に間違いない。
 女は泣きながら、従者に「芦を買って 物や食べ物をたくさんあげなさい。」と言うものの、従者は 単なる気まぐれな同情だと思って、そんなことをしてやることはない と返す。
 男はそんなやり取りを聞いているうちに訝しく思い、車の中を覗いてみると、その女主人が昔の妻であることに気づく。
 自分の落ちぶれた姿が情けなく いたたまれなくなって 逃げ出し、姿を隠す男。
 しかし従者に見つかってしまった。
 男は従者に硯を頼んで 手紙を書く。
  <君なくてあしかりけりとおもふにもいとど難波の浦ぞすみうき>
 封をし、女主人に渡すように頼む。
 怪しいと思いつつも 女主人に手紙を渡した従者。
 それを読んだ女は 悲しみに泣くばかりであった。

 なーんか身につまされる感じ、、、

 伊勢の歌は この悲話をダブらせているわけです。

 伊勢は藤原北家の流れを汲む 伊勢守藤原継蔭の娘 (872頃-938)。
 宇多天皇の中宮温子の女房として仕えて 天皇の寵愛を受け その皇子を生ました (早世)。その後 宇多天皇の皇子 敦慶親王と結婚し 女の子を産みますが、これが母同様 有名な歌人となる中務(なかつかさ) です。
 伊勢は藤原仲平・時平兄弟を含む華麗な恋愛遍歴と 情熱的な恋歌で知られ、勅撰和歌集に176首もの歌が入集しています。

 
 1960年発行の切手の伊勢(切手趣味週間シリーズ)。デザインのもとになったのは 13世紀に制作された佐竹本三十六歌仙絵巻のようです。
author:, category:いろとりどりの歌(百人一首鑑賞), 11:47
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