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♪Questo♪Momento♪ 第21番「谷にこだまする革命のファンファーレ」
 15年前ほど前だったか、今はなき難波のCD店の小さな中古コーナー。
 処分品のような値段で売っていた、DECCA録音 ホルヘ・ボレットによる リストの「巡礼の年」第1年と第2年。
 この2枚のCDに刻まれた詩的な美しさは、それまでリストに対して私が抱いていた 超絶技巧と俗受けの博覧会というイメージをガラッと変えることになりました。

 リストを積極的に聞くようになるきっかけとなったわけですが、それと同時に ボレットという 最も愛するピアニストのひとりを発見した瞬間でもありました。

 最初は「第2集-イタリア」がより好きでしたが、今は より風景画的で叙情的な「第1集-スイス」のほうが好き。

 年上で 二児の母であったダグー伯爵夫人との道ならぬ愛。
 出会って2年後の1835年、リスト24歳、夫人30歳の時、ふたりはスキャンダルの騒ぎから逃れるために スイス・ジュネーヴに移り住みます。
 その年から翌年にかけて作曲された「旅人のアルバム」は、美しい自然の中 ふたりで過ごした愛と安らぎの日々の結晶というべき作品。

 その出版に際して書かれた作曲者の一文。
 −ここ何度か、さまざまな国、景勝地、歴史や詩によって神聖なものとされた多くの場所を遍歴して、それらに結びついている自然や情景の多様な諸相が、私の魂の中で深い感動を喚起しているのを感じた。私は自分の感興の最も鮮烈な趣のままに、たとえわずかではあっても音楽に表現しようと思ったのである。(一部省略)

 3巻12曲からなる「旅人のアルバム」は 20年ほどのちに改訂され、1855年 9曲からなる「巡礼の年 第1年-スイス」となるのですが、上掲の文は「巡礼の年 第1年」にもそのまま当てはまることでしょう。

 「風景画的」と書きましたが、もちろん単純な描写ではありません。

 第1曲「ウィリアム・テルの聖堂」。
 静かでゆったりとした開始。主題が優しく厳かに奏でられます。
 ルツェルン湖畔に建つ質素な礼拝堂を訪れた時の印象でしょうか。充足感に満ちたような美しい音楽。
 胸がいっぱいになりますが、音楽は突然 不安げにざわめき出します。
 谷にこだまする革命のファンファーレ。スイス独立運動と その孤高の志士の幻影。
 この曲の冒頭には、シラーの「ウィリアム・テル」からの「皆のためのひとり、ひとりのための皆」が掲げられています。
 音楽は激し 高潮し、主題が高らかに鳴り響きます。
 幻影から解かれるように 徐々に穏やかさを取り戻していきながらも、なおもファンファーレは頭の中でこだまするのです。
 −う〜ん、いいですねぇ!

 第2曲「ワレンシュタットの湖にて」も好き。
 ダグー夫人と訪れた湖。その優しい波、きらめく陽光、滴るしずく。
 舟歌のようでもあるこの小曲、神秘的な美しさを感じさせずにはいられません。
 バイロンの「チャイルド・ハロルドの遍歴」からの引用は「私の住む俗世間とは対照的な湖は その静けさによって私を諌める。地上の煩瑣な水を捨てて 清純な泉を見つけるように と。」

 第3曲「パストラーレ」も素敵。
 それらしい素朴なメロディとリズム、持続低音。しかしそれは芸術的に洗練されており、また耳の奥で鳴っているかのように密やかに響きます。そして そうした幻想が突然止むかのように 音楽は完全に終結せずに終わってしまうのです。

 きりがないので これくらいにしておきますが、この曲集で最も有名な第6曲「オーベルマンの谷」について ひとつ書いておきたい。
 この曲、実はその突出した規模の大きさとともに、内容も異質なのです。
 というのも セナンクールの小説「オーベルマン」に刺激を受けて書かれた曲で、スイスの自然とは関係がないのです。オーベルマンは地名ではなく 主人公の名。
 スイスを舞台にしているということで この曲集に加えたとのこと。
 規模が大きいのだし、独立曲としてもいいような気もしますが、曲集に重みを与えるために 外すことは考えられなかったのでしょうか。

 ***

 リストの演奏旅行による不在、浮気などが原因で、1844年 ふたりは別れることになります。
 「巡礼の年」への改訂は その離別後10年以上経った時のことでした。
 その終曲として置かれた「ジュネーヴの鐘 − 夜曲」には 長女ブランディーヌ誕生の喜びと 当時の精神的充溢が表されていると言われていますが、改訂時 リストはどんな気持ちを抱いていたことでしょう。
 なお 次女コージマは そう、後のワーグナー夫人であります。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 15:15
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