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♪Questo♪Momento♪ 第22番「郷愁の中の生の悲しみ」
 先日の夜のこと、父から <バーバーのバイオリン協奏曲を聴いて、こんないい曲やったんや!と感動。> というメールが来たのですが、私は <歌曲の「ノックスヴィル 1915年の夏」はノスタルジックな美しい曲、いずれ百曲一所で取り上げる予定です。> と返信しました。

 その時 父が興味あるならネット動画で聞けるように と思い「バーバー ノックスヴィル」で検索してみたのですが、まったく出てこない。
 しかし 念のため「BARBER KNOXVILLE」で検索してみたところ、たくさん出てきたではありませんか。
 管弦楽伴奏版、ピアノ伴奏版、有名ではない歌手のライヴ、ドーン・アプショウとジンマンのセッション録音 (NONSUCH)、レオンタイン・プライス、そしてこの曲の依頼者で初演者のエレノア・スティーバーの貴重なライヴ録音!
 日本では決して親しまれている曲とはいえませんが、母国アメリカでは大変愛されているのですね。
 それらを聞いて大いに楽しんでいた私。
 しかし 動画に和訳が出てくるわけではなく、もともと歌曲を聞かない父に案内するのはやめておきました。

 さて、その夜が明けて 朝方。
 私は昔住んでいた家の夢を見ました。小5から中1まで住んでいた大阪交野の家。玄関、庭、隣の庭。
 起きた時 そのくらいしか覚えていなかったのですが、当時のことを懐かしく いろいろと思い出していました。
 ノスタルジーで胸がいっぱいになったところに 頭の中に鳴り響くは「ノックスヴィル」。
 百曲一所第19番でヴォルフを取り上げたばかりですので 歌はまだ先にするつもりだったのですが、すぐに取り上げずにはいられなくなったわけです。

 「ノックスヴィル 1915年の夏」は、ジェイムズ・エイジー (1909-1955) の散文詩「A Death in the Family」の一部への付曲。テネシー州の小さな町ノックスヴィルで過ごした子供の頃の思い出が綴られています。

  It has become that time of evening 夕刻になった
  when people sit on their porches, 人々がポーチに座って
  rocking gently and talking gently and watching the street
  優しく椅子を揺らし 静かに話して 通りを眺める時

 くつろいだ夕方のひと時を表す 優しい3拍子のメロディ、管楽と弦楽のゆったりとした伴奏。
 この主要主題の出だしの部分は、ヴァルトトイフェルの有名なワルツ「エステュディアンティーナ (スペインの学生楽団)」(「女学生」の誤訳で知られる) のトランペットのメロディに似ています。

  A streetcar raising its iron moan, stopping, 路面電車が不快な唸りをあげて 停まり
  belling and starting, stertorous, ベルを鳴らして発車する 喘ぐような音を出して

 の部分から音楽は騒がしくなり、文明の利器が昔ながらの安らぎの時間をかき乱すことへの嫌悪が。

 しかし夜になって穏やかな時間が戻る。
  On the rough wet grass of the backyard からは変拍子。
 裏庭の草の上に敷いたキルティングの布に寝そべる家族。ここがまたいいんですよ…。

 優しく軽やかなピッツィカートのリズムがやんで レガートによる息の長いメロディが現われ、星空が歌われます。
  The stars are wide and alive (中略) and they seem very near
 ここもいい! 私はキャンプ登山での満天の星空を思い出すんです。

 そして By some chance, here they are, all on this earth の部分から 音楽は不穏な感じで声高になる。
  and who shall ever tell the sorrow of being on the earth の sorrow で頂点を作ります。
 特に好きな部分はここ!
 皆が この世に生きる者が背負っている悲しみを考えないようにして 幸せな時間を過ごしていることに対する不安、あるいは違和感。
 子供ながらにそんなことを感じているのです。

 その後 家族の幸せを願う神への祈り。
 やや穏やかになるものの まだ不安な音楽。ルーティーンな祈りではなく 切実さがあります。
 管弦楽のみとなって 再び声高になりますが、それが落ち着いて 主要主題が現われ 穏やかさを取り戻します。 −眠りの時。

 しかし最後 急な転調によって調子を変え、自分という存在への疑問を示します。家族がそれを教えてくれない苛立ち。
 しかし主要主題が再び現われて、穏やかに曲を終えるのです。

 古き良き時代への郷愁、家族への愛、子供ながらの哲学的思考。
 自らの思い出がオーヴァーラップし、しみじみと感じ入ってしまう。佳曲です。

 「A Death in the Family」はフィクションながら 自身の経験をもとにしているとのこと。1915年はエイジー7歳、父を亡くした年。そうした状況の中で回想される思い出ということですね。
 後半部分、悲しみを背負った生や 真摯な祈りがクローズアップされるのも そうした状況による前提があるわけです。
 さらに 1947年 バーバーがこの曲を作曲した時、彼の父は死の床にあったようです。

 ウチの父はいたって元気。ずっと元気で 私よりも長生きすることでしょう。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 16:14
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