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いろとりどりの歌 第36曲「春の夜の」

 第36曲は 百人一首第六十七番
 ≪春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなくたたむ名こそ惜しけれ≫ 周防内侍 (千載集・雑)

 千載集の詞書は、二月ばかり月のあかき夜 二条院にて人々あまた居あかして物語などし侍りけるに 内侍周防よりふして 枕もがなと忍びやかに言ふを聞きて 大納言忠家 これを枕にとて かひなをみすの下よりさし入れて侍りければ よみ侍りける

 春二月の月の明るい夜、二条院 すなわち関白教通(のりみち) 邸で、貴族たちが夜更かしをして会話を楽しんでいた。
 何時間も経って疲れてきたのでしょう、周防内侍が何かに持たれかかって「枕があればなぁ」とポツリと言った。
 すると、御簾(みす) の下から 人の腕が出てきたではありませんか。
 「どうぞこれを枕に」という声。−大納言忠家でした。

 御簾の外では 若い貴公子たちが聞き耳を立てて “女子会” の様子を伺い、話しかけるキッカケを探っていたのでしょうか。
 それとも忠家ひとりで潜んでいた? −それじゃちょっとアブナイ奴みたいですよねぇ。
 まぁ どちらにせよ、オシャレなかただわ と好意を持ってくれるか、キザなヤツと嫌われるか、忠家 決死のアタックです。

 この歌は それに対する返事。
 = 春の夜の 夢のような手枕のせいで 甲斐もなく立ってしまう浮き名が惜しいのです =
 「かいなく」は「甲斐なく」ですが「かいな (腕)」が読み込まれています。
 もっと意訳すると、一夜だけの魔法の枕を使ったと 余計な噂が立ってしまったら、悔やんでも悔やみきれませんわ。 −そんな感じでしょうか。

 周防内侍 かっこいいですねぇ。清少納言の 「夜をこめて」 に似た、恋愛のかけひき上の機智の歌。昔から好きな歌です。
 一緒にいた女房たちの眠気も覚めたことでしょう。彼女たちの声をひそめた笑い声が聞こえるようです。
 しかしそれで忠家はスゴスゴと逃げ帰ってしまったわけではなく、歌を返します。
 <契りありて春の夜深き手枕をいかがかひなき夢になすべき>
 − 縁があって差し出すことになった手枕を 甲斐のない夢にするわけがないでしょう −
 「契り」は 前世からの因縁という意味で、一時の浮気心ではなく、私たちは結婚する定め、それを前提とした手枕なのですよ、というアピールなのでしょうか。
 しかし、あちこちの女に「結婚しよう」などと言っていると 後でイタイ目に遭うということを、最近 若い俳優が身を持って体験したところです。


 周防内侍(すおうのないし) は平安時代後期の歌人。本名は平仲子(たいらのちゅうし) (1037年頃 - 1110頃)。父は周防守 平棟仲。
 後冷泉天皇に出仕、その後 後三条・白河・堀川の四帝に仕えました。歌人として高く評価され、しばしば歌合に参加したとのことです。勅撰和歌集には三十六首が入集。

 一方 大納言藤原忠家は 二条院のあるじ 教通の弟 長家の子。道長の孫に当たり、また俊成の祖父。ということは とりもなおさず、定家は曾祖父がやりこめられた歌を選んだということであります。

author:, category:いろとりどりの歌(百人一首鑑賞), 22:37
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