RSS | ATOM | SEARCH
♪Questo♪Momento♪ 第29番「地獄に落ちた魂」
 レコード店に勤めていた時にお知り合いになった光永秀子さんは 滋賀出身・在住、地元を中心に活躍されているピアニスト・チェンバリスト。
 彼女は10年かけて クープランのクラヴサン曲集 全27組曲(オルドル) をすべて弾くというプロジェクト「ベルサイユへの憧れ」に挑んでおられたのですが、先日5/19に第10, 15, 20組曲を演奏。これが第10回目・最終回で 全曲演奏が一応無事終了しました。おめでとうございます♪
 “一応” と書いたのは、2台のチェンバロを要する曲は弾いておらず、室内楽曲とともに追加コンサートをおこなわれる予定であることから。大いに楽しみであります。

 光永さんがクープランの魅力にとりつかれたのは大学卒業したての頃、中野振一郎氏のコンサート、そのアンコールで聞いた「神秘的な障壁」がきっかけだったとのこと。
 その1曲が その後の人生を大きく動かしたのですから、たった2〜3分ほどの演奏時間は 途轍もなく大きなものであったということになりますね。人生 分からないというか、ホント面白いものです。
 今回のコンサートでもアンコールに “マイ・ベスト2” として「神秘的な障壁」、それと「ティク・トク・ショク」を弾かれました。
 その演奏はこなれていて、堂に入っていて、特別な曲であるというのがよく判るものでした。


 私がクープランのクラヴサン曲の魅力を知ったのは25歳くらいの頃。ロベール・ヴェイロン-ラクロワのCDでした。
 装飾音のいっぱい付いた しゃれた小曲は、まさにフランスの王宮の華やかなイメージそのもので イッパツで魅了されました。
 光永さんと同じ2曲、それと「キュテラ島の鐘」「恋のサヨナキドリ」の4曲が 最も好きな曲でした。
 もちろん光永さんのように自分で弾きたい!とはなりませんでしたが、その後 シャルパンティエなど フランス・バロックが好きになるきっかけに。
 しかし当時は V-ラクロワが使用しているのはモダン・チェンバロ (ノイペルト製) であるとはつゆ知らず。えらく華麗な音だなぁ とは思っていましたが。
 とはいえ モダン・チェンバロと知ってからも 私はこの録音を愛し続けています。

 その後、ブランディーヌ・ヴェルレの全集の一部も聞きましたが、今でも気に入って所持しているのは ユゲット・ドレフュスによる第13組曲、第11組曲のCD。DENONによる日本での録音です。

 特に好きなのは、第13組曲。
 「花咲くユリ」「葦」「胸飾りのリボン」「フランスのフォリア あるいはドミノ」「地獄に落ちた魂」からなります。(「花咲くユリ」については以前メルマガでチラッと書いたことがあります。)

 5曲とも短調。
 「花咲くユリ」は曲名から想像されるような華麗な曲ではなく、単旋律的で 楽想が広がらず なんとなく不自由さがあるのですが、ユリはブルボン家の象徴で、5歳で王位を継いだルイ15世を表しているとのこと。ひょっとすると その頼りなさや不安を表しているのでしょうか。

 次の「葦」も短調で寂しげながら こちらは美しいメロディ。ちょっとした開放感を感じてしまいます。
 それにしても華麗な花を咲かせるわけではない 地味な植物はいったい何を表しているのでしょうか。まさか本物のアシ原を描写したものではないだろうと思うのですが、ドレフュス盤の解説には「自然を忠実に描写している」と書かれています。う〜ん 素直に受け入れることができません…。

 クープランにしてはそこそこの魅力という感じの「胸飾りのリボン」の次は、「フランスのフォリア あるいはドミノ」。 
 フォリアはスペイン起源の舞曲で 一種の変奏曲。
 ドミノとは仮面。宮廷の舞踏会を彩る色とりどりの仮面の下には貴族達のさまざまな性格や気持ち、思惑や人生が。
 12のドミノに隠された内側を描き出しています。
 1/純潔:目に見えぬ色のドミノ,2/羞恥:バラ色のドミノ,3/情熱:肉色のドミノ,4/希望:緑色のドミノ,5/貞節:青色のドミノ,6/忍耐:亜麻色のドミノ,7/倦怠:紫色のドミノ,8/コケット:色とりどりのドミノ,9/年老いた伊達男たちと色あせた会計係のご婦人たち:緋色と枯草色のドミノ,10/お人よしのかっこうたち:黄色いドミノ,11/無言の嫉妬:モール風の濃いネズミ色のドミノ,12/狂乱 または絶望:黒いドミノ
 この曲の出だしは「葦」のそれにそっくりですが、なにか意味があるのではないでしょうか。
 そのことも「葦」が単なる自然描写ではないと感じる理由のひとつです。

 そして終曲は「àme en peine」。ドレフュス盤では「煉獄の魂」と訳されていますが、辞書によると、peineとは 罰、苦痛、困難の意味で、àme en peineで 単純に「地獄に落ちた魂」とあります。
 特に好きな部分はここ!
 これ、前曲の 宮廷の耽楽の結果という意味にとれませんか??

 自ら宮廷に身を置きながら、そんな批判を分かりやすい形で書くとも思えないのですが、そういう想像が頭に浮かぶのがしぜんでしょう。

 曲はゆっくりのテンポでサラバンド風ですが、極めて陰鬱。
 昔はクープランに ブルボン王朝の華やかさ、洒脱さを期待してましたので この曲が好きではなかったのですが、クープランは当時の貴族趣味に追従しただけではなく 逞しい表現意欲を持っており さまざまな性格・表情の曲を生み出そうとしたことに気づいてくると、まるで貴族社会の没落を描いたともとれそうな この曲が一転 好きになったのです。

 岸で群落を作る葦は ひょっとするとフランス国民を暗示しているのでは? そういえばフランスには “人間は考える葦” という言葉もある! (「パンセ」は1670年刊行)
 そんな葦が頂いたのは、未熟なユリ。
 目に見えない色のドミノというのは 貴族に純潔はないという意味?
 逸楽に耽るばかりの彼らの魂の行く末は地獄。
 −そんな想像が浮かんでは消えるのです。

 なお「胸飾りのリボン」と訳されている第3曲 L'engageante、辞書では 形容詞で「気をそそる、人をひきつける」とあります。それが名詞として使われているようですが、なぜ「胸飾りのリボン」という訳になるのか皆目見当が付きません。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 20:21
comments(0), -
スポンサーサイト
author:スポンサードリンク, category:-, 20:21
-, -
Comment