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♪Questo♪Momento♪ 第38番「白いドレスの輪舞は狂気を宿す」
 シューベルトのピアノ・ソナタは 最後の第21番変ロ長調D.960をはじめとして、なんやかんや弱点を指摘されながらも、多くの曲が愛されていますね。

 第13番イ長調D.664もそうしたなかのひとつ。
 私はかつてこれを溺愛していまして、6年ほど前になりますか、初めてブログをやった時のタイトルは「ピアノ・ソナタ第13番」でした。
 それだけではシューベルトかモーツァルトかベートーヴェンか判断がつかないんですけどね。

 ナイーヴなリリシズムに溢れる曲です。大きく激する部分はわずか。控えめで、優しい抒情が全編を支配しています。たおやかで可憐な少女を想像させるような。
 しかし そこには影が潜んでいるのですが。

 自筆譜が失われており、作曲年代がはっきりしないようで、かつては1825年作曲とされていたようですが、近年では1819年とするのが一般的のようです。
 1819年となると、シューベルトはまだ22歳。

 シューベルトは友人のバリトン歌手フォーグルとともに、何度か上部オーストリアのシュタイアーを訪れ、その美しい自然と温かい人々に囲まれ 楽しいひと時を過ごしていたようですが、このソナタは シュタイアーに住んでいたヨゼフィーネ・コラーという女性のために作曲されたとのことです。
 シュタイアーを訪れるようになったのは、フォーグルの故郷だったからのようですね。
 そしてフォン コラー家に滞在させてもらっていました。

 1819年7月、シュタイアーから 兄フェルナンドにあてた手紙。
「… フォーグルと毎日ご馳走になっているフォン コラー氏の娘はとても可愛いくて、ピアノが上手なんだ。僕のリートを歌ってもらう予定でいる。…」

 彼女は当時19歳。歌手でピアノも弾けたことが伺えますが、プロだったのでしょうか。

 シューベルトは彼女に惚れていたでしょう。
 この曲は彼女の肖像であり、またシューベルトの彼女への思いなのかもしれません。
 
 1818年から19年にかけて とりかかったソナタ3曲はいずれも未完に終わりましたが、これは完成し、しかも美しい名品として後世に残りました。
 彼女が刺激となり、湧き出る霊感を 素直に譜面にぶつけることができたということなのではないでしょうか。

 第1楽章:アレグロ モデラート (ソナタ形式)、いいですねぇ。
 第1主題の麗しいこと。まさに少女の美しい笑顔。
 高音に駆け上がって第2主題は 3連符の伴奏にのっての愛らしいメロディ。
 その反復で一瞬影をおびたかと思いきや 明るい調子に戻りますが、また短調に転調。その後 明るさは戻るも、結局 提示部の最後は不気味に終わります。
 その移ろいが素晴らしい!
 シューベルトの晩年に聞かれる寂寞感の先駆。
 こんな深みのある曲を20歳そこそこで書いたなんて、驚くばかりです。

 もちろん 第2楽章:アンダンテも好き。
 寂しげで密やかな二長調。ヨゼフィーネへのやるせない思いが募っていくような。

 しかし「ここが好き!」は、第3楽章:アレグロ (ロンド風ソナタ) にいたしましょう。
 白いドレスの少女たちが 野原を無邪気に跳ね回って遊ぶような、3拍子の軽快な曲。

 しかし ふとした調子に 不思議と恐ろしく感じてくる…。
 明るい無邪気さに、狂気を感じるのです。−白痴的な。
 いつしか明るい野原ではなく、暗い灰色の背景に。女の子たちの輪舞は、たったひとりたたずむ 表情のない女の子に。
 交響曲第7番ロ短調D.759の第2楽章と同様、ムンクの世界がよぎるのです。

 あくまで ふとよぎるだけです。
 しかし この曲を特別と感じるようになったのは、単に美しい曲だからではなく、そうした曲に 不気味な裏の顔を感じるからなのです。


 美しいが 見開いた目。白いパジャマ。乱れた髪。包帯を巻いたクマのぬいぐるみ。
 「ヒットエンドラーン!」と叫びながら飛び跳ねる女の姿が。

 いやいや、鳥居みゆきはヨゼフィーネ嬢ではない…。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 01:25
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