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いろとりどりの歌 第64曲「嵐吹く」

 秋の歌も最後となりました。
 第六十九番
 ≪嵐吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり≫ 能因法師 (後拾遺・秋)

 = 嵐に吹き散らされた三室山の紅葉が龍田川の錦の着物となった =

 昨日 大阪は いわゆる爆弾低気圧で 冷たい強風が吹き、ついに冬本番かと思わせる寒い一日でしたが、この歌の「嵐」はこのような冷たい強風でしょうか、それとも雨を伴っているのでしょうか。

 「三室の山」は 大和国(奈良県)生駒郡にあり、神南備山(かんなびやま) ともいいます。下句の「竜田川」とともに歌枕。

 詞書は、永承四年内裏歌合によめる

 永承四年(1049) 十一月九日に催された殿上歌合の時の作で、
 <散りまがふ嵐の山のもみぢ葉はふもとの里の秋にざりける> 侍従祐家
 と合わせられて、勝ちを得ました。
 当時から秀歌としてもてはやされたらしいとのことです。

 竜田川の紅葉というと、在原業平の 「ちはやぶる」 を思い出しますが、<竜田川もみぢ乱れて流るめり渡らば錦なかや絶えなむ>、<竜田川もみぢ葉流るかんなびの三室の山に時雨降るらし> など古来似た歌は多く、三室山・竜田川は紅葉の名所でした。

 ところで、私の現代語訳は これを読まれるかたそれぞれが元歌から感じられるイマジネイションを楽しみ、尊重していただきたいということから、意訳はできるだけしないように心がけていますが、三省堂の古語辞典の訳はまったく正反対、作者の心情をできるだけ汲み取って表わしています。
 −風の吹きおろす三室山、ああ惜しい、あのように美しい紅葉が…、と思ったら、実はその散りまがう紅葉は、竜田川を彩る錦だったのだ。

 ここまで感情的な訳であるのは、学生用の辞書だからということなのでしょう。

 かねてから「嵐吹く三室山」と「竜田川の美しい錦」が同時間としてイメージしにくく、嵐吹いた後の錦の川なのだろうか、などと疑問を感じていたのですが、この訳を見ると、そんなことはどうでもいいではないか、マンガチックな美を楽しみましょうという気にさせられます。
 けだし名訳。
 それと「風の吹きおろす」と訳しているということは、雨はないと解していますね。
 今までの歌も 三省堂の古語辞典を参考にすればよかったとちょっと後悔しています。

 能因は俗名 橘永?(たちばなながやす) (988-没年不詳)。法名は初め融因。
 大学に学び 文章生となりますが、二十六歳の時 出家します。摂津国古曽部に住んだことから 古曽部入道と呼ばれました。歌は藤原長能に師事。後冷泉朝を代表する歌人となりました。
 諸国を旅し、陸奥での作 <都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞふく白河の関> は有名。
 自然に身を置き、その感動を あまり技巧を用いず 現実に即して歌う態度は、平安後期の叙景歌を導き出し、西行にも影響を与えたとのことです。
 自撰の家集「能因集」他 著書あり。後拾遺集初出で、勅撰入集六十六首。

 「都をば」の訳 −霞立つ春に都を発ったが ここ白河の関にはもう秋風が吹いている
 「たつ」は「霞がたつ」と「旅立つ」をかけています。
 「嵐吹く」よりも素直に響くなぁ…。

 古曽部という地名、大阪府高槻に現在でも残っているようです。
 JR高槻駅の北方 ほど近いところ。下のほうの弟の家にも近いです。

 ***


 ちなみに「竜田 (立田) 揚げ」は、赤褐色の揚げ色を竜田川の紅葉に見立てたというのが有力な説のようですね。

author:, category:いろとりどりの歌(百人一首鑑賞), 18:23
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