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♪Questo♪Momento♪ 第57番「羽根を毟りとられた蝶々の悲劇」
 プッチーニとの付き合いは高校時代「ボエーム」のLPの購入から。

 ビーチャム指揮、ロス アンヘレス、ビョルリングの録音。

 東芝EMI−セラフィムの2枚組2600円の廉価盤シリーズで、歌詞対訳はなく、タイム付きのあらすじを読みながら 一所懸命聞いたものです。

 大学に進学し 親もとを離れて生活をしたいと思っていた時で、気の合う友達との貧しくも楽しい共同生活に憧れました。

 病弱のかわいこちゃんとの恋までは想像していなかったと思いますが。



 その後「ボエーム」の “泣かせ” に馴染めないものを感じるようになりますが、しかしプッチーニはもちろん、観客の涙を絞らせることだけを考えていた作曲家というわけではなく、緊張感あるドラマティシズムや、笑いを誘う喜劇的要素も得意にしていました。



 最も緊張感あるドラマティックなシーンは「トスカ」の第2幕でしょう。

 スカルピアは ヴェルディの「オテッロ」のイャーゴと並ぶ、イタリアオペラが誇る大悪人!

 第2幕の中心は、恋人の助命を乞う歌姫トスカと 彼女をわが物にしようとするスカルピアとの二重唱。

 スカルピアの憎々しげな悪人ぶりは最高で、私の心を捉え、第2幕後半のスカルピアのパートをそらんじるようになったほど。



 「トゥーランドット」も好きですよ。

 これはヴェルディを意識したプッチーニの総決算的なオペラだと思いました。

 世話物ではなく、王侯を主人公とした豪華絢爛たるスペクタキュラー。

 劇的要素、叙情的要素、喜劇的要素ができるだけ均等になるようにし (このオペラの前に「三部作」という実験がある!)、最後涙で終わらせない。

 −オレはヴェルディに負けない偉大なオペラ作曲家だ!

 しかしプッチーニはオペラを完成させることができず、リューの死で絶筆となった。

 このことは非常に象徴的だと思います。



 さてもうひとつの名作「蝶々夫人」ですが、これに馴染んだのはその3作よりかなり後となりました。

 LPは早くに購入していたのですが (カラヤン指揮、フレーニ、パヴァロッティ)、長い第2幕の蝶々さんの無垢な一途さが痛々しすぎる…。

 話だけでも涙腺を刺激するだろうに、それにセンチメンタルな音楽が延々と続く。私には堪えられませんでした。



 プッチーニ:「蝶々夫人」 台本:イッリカ、ジャコーザ 作曲:1901〜3年



 あらすじ =

 明治時代の長崎、港を見下ろす丘に立つ家。アメリカ海軍士官ピンカートンは 結婚仲介人ゴローの斡旋によって 蝶々さんと結婚。しかしピンカートンはほんのお遊びのつもり。アメリカ総領事シャープレスはまずいことになると忠告するが、ピンカートンは聞く耳を持たない。

 蝶々さんは15歳。武士の家に生まれたが 父が切腹、没落して芸者となっていた。蝶々さんにとっては結婚はいたって本気で、内緒でキリスト教に改宗までしていたが、その改宗を知った叔父の僧侶ボンゾが結婚式に怒鳴り込み、他の親戚も恐れて帰ってしまう。悲しむ蝶々さんをピンカートンはなぐさめ、ふたりは初夜を過ごす。(以上 第1幕)

 ピンカートンはすぐにアメリカに帰ってしまって、それから3年。彼の帰りをひたすら待つ蝶々さん。ある日 シャープレスがピンカートンの手紙を持って現れるが、ふたりの間にできた子を見せられ、シャープレスはピンカートンがアメリカで結婚したことを話せなくなってしまった。

 シャープレスが帰ったあと、蝶々さんはピンカートンの軍艦が入港するのを見る。喜んで彼の帰りを待つが、一晩中待っても訪ねて来てくれない。

 翌朝 蝶々さんが疲れて寝た時、やっと訪ねてきたピンカートン。しかし妻ケイトとともに。女中のスズキから蝶々さんの思いを聞いたピンカートンは耐えられずそこから立ち去る。

 直後に蝶々さんが起きてきて、ケイトを見た彼女はすべてを悟る。彼女は子供をアメリカにやる約束をして、ひとりになり、父の形見の短刀で自刃する。



 あらすじを書くだけで、涙がこみ上げてきそうになりましたわ…。

 同時に安倍首相が訪米して大統領に会ってもらうのに、先方の喜ぶお土産を持っていかねばならないという日本の立場にも…。



 でも第1幕はそれほど湿っぽくなく、面白いんですよね。

 「君が代」「さくらさくら」「お江戸日本橋」「越後獅子」「かっぽれ」などの日本のメロディがふんだんにちりばめられ、幻想の国ニッポンが描かれます。



 「特にここが好き!」は、蝶々さん登場前のピンカートンとシャープレスの二重唱にいたしましょう。



 Quale smania vi prende! Sareste addirittura cotto?

 いらいらしているようだな。すっかり惚れきってしまったのか?

 蝶々さんの到着を前に落ち着かない様子のピンカートンにシャープレスが尋ねると---



 Non so!... non so! Dipende dal grado di cottura! …

 さぁ どうですかねぇ。彼女のガラス細工のような、屏風絵から抜け出たような、可憐で無邪気な姿に心ひかれたのは確か。優雅な蝶々の飛翔を見ていると、どうしても羽根を毟りたくなってしまったんです、などとピンカートンは不埒な考えを臆面もなく語ります。



 Ier l'altro, il Consolato sen' venne a visitar! …

 シャープレスは、蝶々さんが先日領事館を訪ねてきた時の彼女の真剣さに心打たれた。か弱い羽根を毟りとろうなんてひどい話だ、とピンカートンを諌めるのですが、それまでのピンカートンののんきで飄々とした歌から一転、音楽は美しく優しく情緒的になります。

 −特にここが好き! 美しい音楽で蝶々さんのけなげさへの感動が表わされる。

 大きなクレッシェンドでピンカートンへの非難となったところで、ふたつの声が絡む。

 愛を教えてやるだけですよ、そんなに悪いことじゃない、などとピンカートンはお構いなし。



 その盛り上がった音楽が収まるところで、ピンカートンはシャープレスにウィスキーを勧める。

 ここの弦楽による部分も美しい音楽なんですよね。けなげな蝶々さんの不幸を聞き手に予感させるかのよう。



 シャープレスは「遠く離れた君の家族のために乾杯」。

 するとピンカートンは「アメリカ女性と本当の結婚をする日のために!」



 ああ このクソヤンキー! 日本はいまだにアメリカの植民地か! と怒りが爆発するところで 音楽の調子が一変します。



 Ecco! Son giunte al sommo del pendìo. …

 ゴローが登場、「お江戸日本橋」のメロディで、蝶々さんとその友達がやってくることを知らせるのです。

 一気に日本情緒となるのが面白いのですが 短いブリッジ。すぐに いかにもプッチーニの面目躍如たる 美しい幻想的な音楽で蝶々さんたちの登場となります。



 そういや日本はアメリカに羽根をむしりとられた蝶々のようなものですね。

 素直で無垢な蝶々さんの悲劇が 日米同盟の将来を暗示しているということになりませんように…。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 00:36
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