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いろとりどりの歌 第75曲「久方の」

 美しく咲き誇った桜も ここのところの強風でかなり散ってしまいました。
 今回は、詞書 −さくらの花の散るをよめる の歌を。

 第75曲は 百人一首第三十三番
 ≪久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ≫ 紀友則 (古今・春)

 百人一首の中でも最も有名な歌のひとつですね。
 子供の頃からなんとなく覚えていた歌ですが、ひょっとすると昔CMで使われていませんでしたっけ? 十朱幸代が思い浮かぶのですが…。

 「久方の」は元来 天(あま, あめ) にかかる枕詞でしたが、その後 雨、空、日、雨、都などの枕詞としても用いられるようになりました。「光」の枕詞として用いられた例はこの歌が最初とのことです。
 ただし枕詞から離れ、それ自体で「天、空、日、雲」の意味に使われるようになったとのことで、そうした用例ではないかとも言われているようです。

 いずれにせよ「久方の光のどけき春の日に」という表現は、厳しい冬を脱して訪れた春の穏やかでのんびりとした情景、気分を見事に表わしていると言えるでしょう。
 「さかたの ひかりどけきのひに」というように、は行・な行が多い語感 (しかも各句の最初は「ひ・ひ・は」)。
 ほんわかした雰囲気が出ていますよね。

 「しづ心」は、落ち着いた気持ち。
 ここでは「しづ心なく」ですから、あわただしく、せわしなくというような意味。

 = 日の光がやわらかな春の日、なぜ桜の花はあわただしく散ってゆくのだろう =

 優しく暖かな中に そこはかとない寂しさがあります。

 いつまでも桜咲く春であってほしい。
 そんな人の思いをよそに なんの未練もなく、当たり前のように散っていく桜の花。
 「散り際」などという言葉もあるように、桜の恬淡とした散りかたに 人は自分の人生を重ねるのではないでしょうか。

 ***

 紀友則(きのとものり) は 平安時代前期の歌人・官人 (生没年不詳)。宮内少輔 紀有朋の子。「人はいさ」 の貫之の従兄にあたります。
 官人としては恵まれなかったものの、歌人としては早くから認められていたようで、寛平期には壬生忠岑 ( 「有明の」 ) と並ぶ代表的歌人となっていました。
 古今集撰者に任命されたものの 完成前に死去。
 古今集に四十七首をはじめ 勅撰入集計七十首。家集「友則集」。

 古今集には 友則の死を悼んだ 紀貫之、壬生忠岑による哀傷歌が収められています。
 <あすしらぬ我身とおもへどくれぬまのけふは人こそかなしかりけれ> 貫之
 <時しもあれ秋やは人のわかるべきあるをみるだにこひしき物を> 忠岑

author:, category:いろとりどりの歌(百人一首鑑賞), 22:02
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