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♪Questo♪Momento♪ 第64番「親友の真剣な苦心を笑う」
 久しぶりの百曲一所となりました。

 今回はモーツァルトのホルン協奏曲を。



 ホルンがすべての音を自然に出せるようになったのは19世紀に入ってから。クロマティック・フレンチホルン (ヴァルヴホルン) ですね。

 モーツァルトが協奏曲を書いた1780年頃はまだナチュラルホルン。

 当時は単に金属の管を巻いただけというわけではなく、転調に対応できる「変え管」が開発されていたとはいえ、演奏者は右手を朝顔の中に入れて穴を少し塞ぐとか、全部塞ぐとか 微妙に調整し、半音から全音下の音を出さなければならないということには変わりありませんでした。

 ゲシュットプフ (ストップ) 奏法。なお その技術が開発されたのも それから遠い昔というわけではなく1750年頃とのことです。



 この「開音・閉音」によって 中音域のメロディが奏でられるようになったわけですが、音色はどうしても均一にはならない。

 当時のホルン奏者は少しでも自然な音色でメロディを吹くことに苦心し、またそれが腕の見せどころであったことでしょう。



 モーツァルトは そんな楽器を独奏とする協奏曲4曲とロンドK.371、それに五重奏曲K.407を作曲したわけですが、それらはすべてザルツブルクの宮廷楽団の奏者だったヨーゼフ・ロイトゲープ (1732-1811) のために書かれたものです。

 ロイトゲープがザルツブルク宮廷楽団に仕えていたのは1764年から73年。

 1777年にウィーンに移ってチーズ屋に転職してしまったのですが、どうやら妻の父親の職を継いだということのよう。

 その4年後にウィーンへやってきたモーツァルトとは大親友で、ロイトゲープは 盛んに俺のための曲を作れとねだっていたようです。

 チーズを作りながらも ホルンは吹いていたのですね。単なる趣味というわけではなく、フリーのホルン奏者だったのでしょうか。



 第2番の冒頭に「ロバ、去勢牛、アホのライトゲープ (ロイトゲープのザルツブルク訛り) を哀れんで (ウィーンにて 1783年5月27日)」と書かれていることは有名。

 なお、ロバ、去勢牛というのは、のろま、マヌケというような悪口のよう。どれだけ仲がよかったかが判るというものです。



 2楽章からなる第1番二長調K.412+514 (386b) の第2楽章:ロンドの初稿にもロイトゲープをからかう言葉が書かれています。

 ただし この初稿、独奏パート以外 伴奏の大部分が未完成。

 通常 伴奏もすべて完成している改訂稿が演奏されるわけですが、実はこれ、モーツァルトの死後 モーツァルトのロンド主題をもとに 弟子ジュスマイヤーが作ったものと 近年 判明しました。

 さらに 従来は他の曲と近い時期の1782年頃作曲とされてきた 第1楽章:アレグロと第2楽章初稿自体も、筆跡・用紙の鑑定の結果、死の年1791年の作曲だろうと変更されたようです。

 モーツァルトは死の間際までロイトゲープと仲がよかったということになるわけですが、死の前後 ロイトゲープはモーツァルトとどう関わっていたのでしょう。おおいに興味あるところです。





 さてさて。それらの作品は、ふたりの楽しい付き合いを示すかのように明朗な作風。

 特に第1番と第3番の第1楽章は有名で、TVで使われるのを耳にすることがありますが、最近では第1番の冒頭部分が「いきなり!黄金伝説」で使われていますね。

 また このふたつの主題 結構 似ており、さらに第1番のほうは 長調と短調の違いはあれど、ロシア民謡の「トロイカ」(冬の白樺並木…) を思い出させます。



 私が特に好きなのは ホルン協奏曲第2番変ホ長調K.417 第3楽章:ロンド。



 特にここが好き!は そのC主題 (中間部)、短調になるところ。

 パカラン パカラン パカランとギャロップのような吹奏のあと (ロバではなさそう)、愁いある美しいメロディを奏でるのですが、第1ヴァイオリンがそれをまるで茶化すような合いの手をいちいち入れるのです。

 8分休符のあとのアポッジャトゥーラの付いた5つの8分音符。



 ホルンが美しいメロディを奏でているのに なぜヴァイオリンはチャチャを入れるのか。

 不思議に感じていましたが、この答えは ナチュラルホルン演奏で明らかになりました。

 

 ナチュラルホルンだと 開音・閉音の連続で 美しく吹くのが大変難しいのです。

 滑らかに吹く技術は万全である名手ヘルマン・バウマンでさえ、どうしても ひしゃげたような音が混じってしまう。

 あのヴァイオリンの合いの手は、哀愁を帯びた美しいメロディを何とか美しく演奏しようとするロイトゲープの真剣な苦心へ対する、モーツァルトのいたずらの笑いではないでしょうか。



 「よくもやってくれたなぁ、ヴォルフガング!」

 試演時の 笑いに包まれたふたりのやりとりが思い浮かぶようです。



 この曲集を聞く時には真っ先に聞く楽章ですが、ヴァルヴホルンだと難なく美しく吹くことができるので、ヴァイオリンの笑いは意味をなさないのですね。

 ヴァルヴホルンで演奏するなら、いっそのこと 第1ヴァイオリンは レガートで弾くなど変更してしまったほうがいいかも知れません。



 ***



 ♪Questo♪Momento♪ 第62番 ☆ ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595 で最後に書いた <31小節目で初めて出てくる 8分休符のあとのアポッジャトゥーラの付いた3つの8分音符。何度か現われますが (ピアノでも奏される)、穏やかな笑いのようにも聞こえます。>



 その時 ホルン協奏曲第2番を取り上げることを決めたのですが、やっと書けました。

 ああ スッキリした…。



  

  ↑ ナチュラルホルンを楽しめるバウマン1回目の録音。ウマすぎるほどウマく

   もうちょっと荒さのある演奏が聞きたいと思うほど。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 02:29
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