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♪Questo♪Momento♪ 第67番「サヨナキドリのトリルは美少年に昇天を予告する」
 やっとこさ シューベルトの登場とあいなりました。

 実は室内楽の大曲2曲を取り上げなければ とずっと思っているのですが、なかなか気が向きません。譬えれば 峻険な山を調査しながら登らなくてはならない感じ。一歩引いて眺めるのとは大違いです。

 そこでリート (ドイツ語歌曲) から1曲。



 思えば シューベルトのリートとの付き合いは 室内楽やピアノ曲よりも早かった。高校の時に ヴンダーリヒの「水車小屋」、シュヴァルツコップの歌曲集のLPを買っていました。学校で「野ばら」や「魔王」を習ったことの影響があったでしょう。



 「冬の旅」全曲となるといまだに怯んでしまうのですが、「ライヤー弾き」はスゴイ曲ですね。

 他に特に愛着を感じるものは「影法師」「小川の子守歌」「タルタルスの群れ」「君はわが憩い」「ます」「ミューズの子」「孤独な男」… ありゃ、こりゃキリがありません。



 しかしその中でも好きな曲は

 「ガニュメード Ganymed D.544 (Op.19-3) ゲーテ詞 1817年作曲



 通作形式で作曲されたバラード。「野ばら」、あるいは歌謡曲のように、詩の第1節につけられた旋律を第2節以降も繰り返す有節形式とは違って、詩の物語性を重視して自由に書かれています (クラシック・ファンには ポップスで言う “バラード” って違和感ありますよねぇ)。



 詩は ギリシャ神話の最高神ゼウスに見初められた美少年ガニュメーデース (ガニュメード) が天界に上げられる場面を描いており、ガニュメードが思いを語るという形。



 穏やかな開始。春の賛美です。

  Wie im Morgenglanze du rings mich anglühst …

  朝の光につつまれて おまえが僕のまわりで輝いている

  春よ、愛するものよ!




 ピアノの音形が細かくなって クレッシェンド。だんだん表情が大きくなり、小さなピークを形作ります。

  Mit tausendfacher Liebeswonne sich an mein Herz drängt …

  無限の愛の喜びとともに おまえの永遠のあたたかみの

  清らかな思いが 僕の胸に迫ってくる

  限りなく美しい者よ!


 

 ピアノは4分休符+1拍3連で始まる1小節のフレーズの繰り返しに。

  Daß ich dich fassen möcht' In diesen Arm! …

  おまえを抱きたい この腕に!

  ああ おまえの胸に 身をよせてあこがれる

  するとおまえの花や草が 僕の胸元に群れてくる
 



 そのフレーズは収まり、変イ長調からホ長調に転調。何かが起こる予感を喚起。

  Du külst den brennenden Durst meines Busens …

  僕の胸の燃えるような渇きを お前が冷ましてくれる

  こころよい朝風よ!




 ピアノの息の長いトリル。サヨナキドリの鳴き声が。そのあと 2拍目に4連符のあるフレーズの繰り返し。

  Ruft drein die Nachtigall liebend nach mir aus dem Nebeltal

  霧の谷間からサヨナキドリが 愛を込めて僕を呼ぶ




 ピアノはスタッカート付きの2拍4連の連続に。ウン ポーコ アッチェレランド。クレッシェンドからデクレッシェンド。上空に連れて行かれる驚きと興奮が表わされます。

  Ich komm, ich komme! ach, wohin? wohin?

  僕は行く 行くのだ!  

  どこへ? ああ どこへ?




 ヘ長調に転調。高度が上がって気圧が変わるような感覚。クレッシェンド。

  Hinauf! strebts hinauf!

  上へ行くのだ! 上へ




 興奮を保ちながらも 少し静かに。ピアノにはスラー。

  Es schwebe die Wolken abwärts, …

  雲がただよい 下ってくる *

  雲が憧れの寵児にお辞儀をする *




 しかし再び興奮。細かい音形のピアノは息の長いクレッシェンド。

  Mir! mir! in eurem Schoße aufwärts! …

  僕に! この僕に!   

  おまえのふところに抱かれて 昇るのだ!

  抱きつつ 抱かれて!

  あなたのもとへ昇ります




 そして最後、あたかも身を任せるように

  allliebender Vater!

  すべてを愛したもう父よ!




 雲が憧れの寵児にお辞儀をする に戻り、最後 すべてを愛したもう父よ! を繰り返す。

 そしてピアノ後奏はピアニッシモによるニ分音符のゆっくりとした音の上昇。ガニュメードがまだまだ上昇し 見えなくなってしまう様子でしょう。

 なんと素晴らしい…。



 特にここが好き!は サヨナキドリの部分を。ドラマティックな展開の序奏。

 そこから緊張感と、法悦感のような感覚のある音楽となります。





 和訳は石井不二雄氏のものをベースにしています。喜多尾道冬氏訳と比べながら。

 ただ、*の部分

  Es schwebe die Wolken abwärts,

  die Wolken neigen sich der sehnenden Liebe.


 石井氏訳「雲がただよい 下りてきて、雲は 憧れる愛の方に身を傾ける」

 喜多尾氏訳「上空に漂う雲は下方へ向かいつつ 胸を焦がし 愛するものに身を傾ける」

 ともに意味が解りにくかったので、辞書を引いて自分で訳してみました。

 neigen sich の基本的な意味は「傾く・下へ向く」、liebe は「愛」ですが、ひょっとすると 神に愛され 召される者に、雲が敬意を表し 頭を下げる という意味ではないでしょうか。





 神々の給仕となったガニュメーデースがどうやって天界に昇ったか にはいろいろと異説があるものの、ゼウスがワシに変身してさらったというのが有名ですね。

 しかしゲーテの詩では 誘拐ではなく、自ら望んでいる感じがします。

 また春の朝、草原に寝転ぶようであることから、ガニュメードは昇天する夢を見たのではないかとも。

 それと ゼウスの名は出てこず、Gott でもなく、Vater であるところから、キリスト教を思わせる。



 あるいは 性を感じさせる言葉の数々。

 「野ばら」(ゲーテ詞)、「ます」(C.F.D.シューバルト詞) も実は性を題材にした 言ってみればエロ歌なんですよね。



 ゲーテはおそらく ギリシャ神話のガニュメーデースを描いたのではなく、その逸話をヒントに 新たな内容を生み出したのでしょう。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 14:05
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