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♪Questo♪Momento♪ 第68番「混沌の中で響く美しいアリア」
 今回は フランク:前奏曲, アリアとフィナーレ 1886〜7年作曲 を。



 1888年5月初演。初演をおこなったマリー・ボルド - ペーヌ夫人に捧げられました。

 フランク60歳半ばの作品。彼は1890年 (68歳) に亡くなりましたので 晩年の作品ですが、フランクの名作はみな晩年に生み出されたものです。



 姉妹編ともいうべき「前奏曲, コラールとフーガ」も「アリアとフィナーレ」の2〜3年前の作品。

 「コラールとフーガ」は「アリアとフィナーレ」よりも有名で、アルフレッド・コルトーは「無人島に持って行きたい10のピアノ曲のひとつ」とまで言ったそうですね。

 私もまずは「コラールとフーガ」を好きになりましたが、その後 それよりもより淡い明るさのある「アリアとフィナーレ」を愛するようになりました。



 フランクの作品には独特のムードがありますね。すぐにフランクの作品とわかるような。

 分厚いテクスチュア、フランス的な軽さとは正反対の重厚さ、暗さ。

 そして半音階的な音の多用が大きな特徴。アンニュイな、不健康な雰囲気があります。



 それと循環形式の使用も書いておかないと片手落ちになってしまいますね。

 多楽章の曲で 共通の主題を登場させることによって 曲全体の統一をはかる手法。フランクの交響曲はその代表的な作品として有名です。



 さて、前奏曲, アリアとフィナーレ。



 ◆前奏曲ホ長調 : アレグロ モデラート エ マエストーソ 4分の4拍子

 慰めのような 優しく親しみやすい主題。アレグロ モデラート エ マエストーソよりも mp センプレ モルト ソステヌートの発想記号のほうがしっくりきます。

 明るさがありますが、分厚い和音、半音階的進行によるアンニュイな、陰鬱さを含んだフランクらしい独特のニュアンスあり。

 どうやら この曲 変奏曲のよう。かっちりとしたものではなく、縫い目は目立ちにくくしてあるので 判っていませんでした。時に主題の原型を挟んで微妙に移ろいます。



 5分前後、p ソステヌート エ セリオーゾ、ユニゾンで二分音符の半音階的進行を奏する部分は大きな変化で、ハッとさせられるところ。

 不気味な静寂ですが、徐々に激していきます。



 最後 主題がもとの姿で帰ってきて、少し変奏。



 ◆アリア 変イ長調 : レント 2分の2拍子

 アルペッジョの序奏。微妙な情緒の移ろい。

 主題は2つの動機からなり、最初の動機は前奏曲の主題に似たもの。これも循環形式の特徴ですね。しかし2番目の動機は情感的な、さらに美しいメロディ。

 その2つの動機は 低音で影のように おのおの繰り返されるのが特徴的。フランクと縁深いオルガンを思い出させます。

 とはいえ テクスチュアはフランクにしては軽めで、前奏曲以上に穏やかなムードをかもしています。

 そして これも自由な変奏曲。

 また 半音階的進行による独特の情緒がしっかりとあり、やはりフランクならではの音楽です。



 ◆終曲 : アレグロ モルト エ アジタート 4分の4拍子

 楽譜を見ると面白い! 右手と左手の五線符 (ともに最初はヘ音記号) の間に16分音符の4連符が20小節にわたって ずらっと並んでいるのですが、おたまじゃくしは1音ずつ上下交互に。いかにもムツカシソー!

 そうして生み出される音楽は、心の内にふつふつと湧き上がるような情念のよう。低音による混沌として激した音楽。



 その後 アニマートの部分に入って スタッカート付きの跳ねるような音楽。混沌はおさまり 高揚感が。

 テンポI に入り、 sempre pp。緊張感を保ちながらザワザワとうごめく音楽。

 その後 再び混沌が現われ、さらにテンポI の音楽が激して現われます。

 続いてアニマートの部分の回帰。



 そしてクライマックス。

 前奏曲の主題が堂々と鳴り響く!

 徐々にテンポを落とし、静かに落ち着いていきます。

 そして穏やかに、名残惜しそうに曲を閉じるのです。



 この曲の閉じ方、苦悩の中 勝利の音楽のようにコラールが鳴り響き、徐々に落ち着いていくメンデルスゾーンの前奏曲とフーガ ホ短調Op.35-1 を思い出させます。



 今回 この文章を書くに当たって ポール・クロスリーのフランク*ピアノ曲集のCDの 彼自身の手になるライナーノートを読んでみたのですが、フランクが自分のスタイルを確立する上で影響を受けた作品3曲のうちのひとつとしてこの曲を挙げているのです。

 特にこの曲の最後の部分が、とは書かれてはいませんが (曲目解説は残念ながらごく簡単なもの)、目にした時は背筋がゾゾッとしました。



 その最後の部分ももちろん感動的なのですが、その前のテンポI に好きな箇所が。

 嬰ト短調のザワザワと不気味にうごめく音楽から、変ニ長調に転調、突然 二分音符のゆったりとした 高音による美しいメロディがドルチッシモで奏されるのです。それは紛うことなきアリアの最初の動機!

 うごめく音楽が挟まれますが (1小節半)、その後 再び美しいメロディ。アリアの2つめの動機!

  

 特にここが好き!

 しかしその美しい慰みもつかの間、冒頭の混沌の音楽にかき消されてしまうのです。





 ところで クロスリーが指摘した フランクが影響を受けた曲の あとの2曲は、メンデルスゾーンの厳格な変奏曲と リストのバッハの名による前奏曲とフーガ。

 2曲がメンデルスゾーンというのも意外な気もしますが、そういえば この曲の前奏曲の主題の変奏の過程で、メンデルスゾーンの交響曲第2番「讃歌」の冒頭のファンファーレを思い出させるフレーズが出てくるのは、単なる偶然ですよねぇ…?



 ***



 今回 楽譜のことで、ピアニスト マリ氏 (以前にも登場しました) にちょっとした質問をしたのですが、そのついでにいろいろと話をしていました。

 彼女、フランクでは ピアノ編曲版もあるオルガン曲 前奏曲, フーガと変奏曲Op.18 が好きだと。

 私には前奏曲の主題が感傷的過ぎるのですが、なんと彼女、リヒテル晩年のリサイタルで この曲を聞いたとおっしゃる。

 なんとうらやましいこと!と驚いていたのですが、この曲よりも、グリーグの抒情小曲集の演奏のほうが味があったのだそうです。



 彼女に 自分が演奏する予定の、シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番や、バッハ−ブゾーニのシャコンヌ、プッチーニの「修道女アンジェリカ」を取り上げてくれ とリクエストされたのですが、まぁ そんなに簡単なものではありません。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 23:12
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