RSS | ATOM | SEARCH
いろとりどりの歌 第84曲「かくとだに」

 7月28日から29日、滋賀・湖北、岐阜県境にある伊吹山に、幕営1泊で登ってきました。
 標高1300余の山ながら 山頂周辺に亜高山帯のお花畑が広がる人気の山。深田久弥の「日本百名山」にも選ばれています。
 交通の便もよく(ドライブウェイが山頂直下まで通じている)、ほとんどの人が日帰りで登るのですが、大阪から電車・バス利用だとせわしない。
 三合目でのキャンプで、ゆっくりと登ることにしました。


 ↑ 三合目から伊吹を望む 電線が邪魔ですね…

 なだらかな草原が広がる三合目。たくさん咲いているユウスゲ。シカ除けのための高い柵に囲われているとはいえ、ちょうど見頃でした。
 あちこち探して結局 小高い丘の上、林の中でテントを設営。
 夜。そばを通られると足音が気になってしまうシカは来ず、鳴き声が聞こえただけだったのですが(邪魔しているのはこっちなのですが…)、風の音がすごかった。
 ゴゴゴゴーと地鳴りのような恐ろしい音を立てて幾度となく吹き渡る。
 しかし不思議なことに丘の上のテントにはまったく風が来ないんです。
 谷筋に張らなくてよかったのかも。しかし谷筋は昔のキャンプ場では? 別のもっと深い谷でしょうか。

 翌朝、まだ真っ暗な4時前に起床。5時過ぎに山頂目指して出発。
 直射日光を浴びることなく、冷たい風が吹く中、快適に登頂できたのですが、山頂はガスで視界不良、しかも一時は肌寒いという予想だにしない状況でした。
 しかしお花畑を行く頃には晴れ間も。
 一面に広がるサラシナショウマはまだツボミだったこともあり、お花畑は期待ほどではなかったものの(ここ5年 シカの食害などでお花畑が荒れてきているという話も)、クガイソウ、キンバイソウをはじめとして美しい花々を楽しむことができました。

 ***

 さて今回は 百人一首第五十一番
 ≪かくとだにえやはいふきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを≫ 藤原実方朝臣 (後拾遺集・恋)
 詞書は、女に初めてつかわしける

 技巧的な歌が多いこの時代の歌の中でも、特に目立って複雑な技巧を駆使した歌。
 「えやは言う」の「いふ」が「伊吹」と掛詞になり、「伊吹のさしも草」は同音の繰り返しで「さしも」を言い起こす序詞。そして「さしも草」と「燃ゆる」、さらに常套技ながら「思ひ」の「ひ」が「火」にかけられており、それぞれが縁語の関係になるという複雑さです。

  かくとだにえやは言ふ さしも知らじな燃ゆる思ひを
          伊吹のさしも草
 −こうすると一層判りやすい。

 下の句は「燃ゆる思ひをさしも知らじな」の倒置で、「さしも知らじな」は「あなたはよもやご存じないでしょうが」という意味。

 一方 上の句。
 子供の頃の正月には「カブトガニ」と言って面白がっていた第一句の「かくとだに」は「こんなふうだというだけでも」。
 「こんなふう」というのは「燃ゆる思ひ」であること。
 「えやは言う」は「言うことができようか、いやできない」という反語的表現。

 「伊吹」は伊吹山 ☆
 −とはいえ、先日私が登った山ではなく、下野国(栃木県)にある山。お灸に使うもぐさの原料となる「さしも草」の産地であったとのことです。
 恋心をもぐさが燃える様子に重ねているのですから、パッと燃え上がる「思ひ」ではなく、長時間くすぶり燃える「思ひ」を暗示しているのでしょう。

 = こんな気持ちでいるというだけでも言うことができようか、いやできない。あなたはご存じありますまい。伊吹山のさしも草のようなあなたへの燃える思いを。=

 三省堂訳 − ほら、こんななのですよ、せめてことばに言い表せればともかく、とてもとても、それさえもできませんので、本当のところ、それほどまでとは、あなたもごぞんじないでしょうね。まるで「さしも草」のように燃え上がっている、あなたに対する「思ひ」という「ひ(火)」がどのようなものかを。

 いつにもましてねちっこい訳ですねぇ。
 「さしも草のように燃え上がる」というのもボオボオ燃えるみたいで、違和感があります。

 ***

 藤原実方 (ふじわらのさねかた) は平安時代中期の貴族・歌人 (?-999)。左大臣 師尹(もろただ) の孫。
 侍従 定時の子だが、早世したため 叔父 藤原済時(なりとき) の養子となる。
 若くして歌才をあらわし、円融・花山両院の寵を受ける。
 左近中将となったが、995年 陸奥守に任ぜられる。
 その三年後、任地で没す(四十歳前後?)。
 陸奥下向にはいろいろな伝説があり、侮蔑的な発言をした藤原行成に対し 殿上で狼藉をはたらいてしまい、一条天皇より「歌枕見て参れ」との命を下された というものが有名。
 勅撰入集六十七首。家集「実方朝臣集」。

 ***

 伊吹山キャンプを2週間後に控えていた時の書いた、前回の第五十番「君がため」。偶然にも次の五十一番が「伊吹山」でした。

 書きましたように、歌は湖北の伊吹山ではなく、下野国にある同名の山なのですが、登った伊吹山山頂のお花畑はシモツケソウ(下野草)(ばら科)で有名というのもちょっとした偶然です。
 登った時は 開花には少し早かったようで見られず。
 ドライブウェイでやってきたアマチュアカメラマンふたりから「シモツケソウ見た?」と聞かれました。

author:, category:いろとりどりの歌(百人一首鑑賞), 01:14
comments(0), -
スポンサーサイト
author:スポンサードリンク, category:-, 01:14
-, -
Comment