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いろとりどりの歌 第9曲「長からむ」

 第9曲は 百人一首第八十番
 ≪長からむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ≫ 待賢門院堀川 (千載集・恋)

 ついに恋歌の登場となりました。

 百人一首のうち半分近くが恋歌でありながら、九首目で初めて取り上げるというのは いかにも遅いわけですが、 --まぁお察しのこととは思いますが-- 私は恋歌の積極的な鑑賞者ではありません。

 私は若い頃から 恋のセンティメンタリズム、お涙ちょうだいが嫌い。
 実は ヴェルディの「トラヴィアータ」の第2幕以降が苦手なのです。

 とはいえ 恋は芸術の主な主題であり 動機。
 モンテヴェルディの「ポッペーアの戴冠」など、恋を題材にしながら 何と奥深いことでしょう。

 しかし わずか みそひともじ (三十一文字) の短歌に、「ポッペーアの戴冠」を期待することは酷というもの。
 恋歌は恋歌。
 趣向を凝らして かっこよく愛を表現すること、あるいは涙を誘うこと。
 古今東西、延々と連綿と、続けているわけです。

 ♪いつだって〜 恋だけが〜 素敵なことでしょう〜〜
 My little loverも「アリス」でそう歌っています。

 どうしても 恋歌に正面から対することができない自分がいるのですが… (狩野英孝の歌を引き合いに出して さらに冗談めかすことは思いとどまりました…)

 とはいえ もちろん好きなものはあります。
 また 歌自体はともかく、詠った人物や 詠われた背景なんかが興味深いものもあります。
 これまで特に好きな歌や、季節に合ったものを優先して取り上げてきましたが、これからは恋歌も折に触れて紹介していこうと思っております。


 この「長からむ」は、百人一首に親しみ始めてすぐに心を捉えたもの。

 「長からむ」「黒髪の」「乱れて」という縁語の醸し出す、妖艶なイメージたるや!

 朝を迎えて 彼は去り 寂しさが襲う 自分の長い黒髪の乱れが見える 楽しかった昨晩のことが思い出される
 彼は「長からむ (ずっと一緒にいよう)」と言ってくれた でも本心なんて判らない まだ出会って間もないのだから…

 恋のはじまりの喜び以上に募る不安、そしてふたりの夜の様子までが生々しく思い浮かんでくるようではありませんか。

 待賢門院堀川(たいけんもんいんのほりかわ) は、右大臣 藤原顕房の孫。
 崇徳天皇の御母 待賢門院 (藤原璋子) に仕え、天皇退位を期に落飾した待賢門院に従って出家しました。

 この歌は1150年に完成した歌集 (久安百首) のために詠まれたもの。
 崇徳院の命により、崇徳院自身を含め 藤原俊成など十数名によって詠まれ、編まれた歌集です。
 
 堀川が待賢門院とともに出家したのが1142年ということですから、意外なことに こんなエロティックな歌が出家後の作。
 昔の自分の経験をもとにしているのでしょうか?
 崇徳院らはどのように感じられたことでしょう。


 ちなみに 京都太秦に程近い 花園という地に現存する法金剛院は 待賢門院が復興した寺です。
 彼女は出家後ここで過ごし、今もその近くに眠っています。

 待賢門院は美人で有名でした (堀川ではないですよ)。
 かの西行も彼女を慕って寺を訪れたという話が伝わっています。

 庭園に蓮の花が咲く頃、私も1度訪れたことがあります。
 堀川の歌碑も庭の片隅に立っていました。

      

 崇徳院の 「瀬を早み」西行の 「なげてとて」、俊成の「こぬ人を」は 百人一首に採られています (みな恋歌)。

 そして何を隠そう、俊成は定家の父であります。

author:, category:いろとりどりの歌(百人一首鑑賞), 22:42
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