MALIBRANは いにしえフランスの音源のCD化を多く手がけているレーベルで、わたしにとって興味深いものが少なくありません。
とはいえ わたしは 新品のCDをほっっとんど買いませんので、3枚しか持っていないのですが… (しかも昨年日本の代理店がなくなってしまったようです)。
若き日のローラ・ボベスコのスペイン交響曲を聞いてみたいものです。
しかしこのレーベルから出ている、ブランシュ・セルヴァの録音を見つけたときは狂喜しました。
あのセヴラックのよき理解者として名前だけ知っていたセルヴァの録音が残っているなんて思ってもみませんでしたから。
しかも名曲「リヴィアのキリスト十字架像の前のラバ引きたち」(「セルダーニャ」からの1曲)、あるいはフランクの「前奏曲、コラールとフーガ」、バッハのパルティータ第1番などと、わたしの好きな曲ばかり♪ 愛着ある1枚であります。(録音:1929〜30年)
そんなわけでこのレーベルの赤のジャケットを見ると心ときめいてしまうのですが、GASTON POULET,JANE EVRARD のCDには最初食指が動きませんでした。(セルヴァと同様、ウン百円だったにもかかわらず)
ふたりとも聞いたこともない演奏者であるのはいいとしても、裏ジャケの曲目をさっと見た限りでは、この女性のほうが何の演奏者なのかよくわからなかったのですね。
何者かよくわからんが、プーレという指揮者の録音との無理やりの抱き合わせか…ということで一度見送ったのです。
2週間後その店を訪れて、また手に取ったこのCD。
そこで裏ジャケのイラストに目が留まり、ハタと気づきました。
エヴラールって指揮者!?
演奏の記載をちゃんと見てみると、「ジャーヌ・エヴラールと 彼女のパリ女性管弦楽団」とあるのです。
昔のフランスにそんな女流指揮者がいて、女性のみのオケ(弦楽合奏団) があったなんて、聞いたことがなかった…。
とにもかくにも一転 興味津々♪ しかも安価でラッキー!
調べてみますと (文献は少なかったのですが)、このCDのふたり、ガストン・プーレ (1892〜1974) とジャーヌ・エヴラール (1893〜1984) はパリ音楽院の同窓で、学生結婚した ともにヴァイオリニストでした!
夫婦そろって「春の祭典」の初演オーケストラに参加していたとのこと。そしてプーレはドビュッシーのヴァイオリン・ソナタの初演者! トスカニーニの勧めで1920年代半ばに指揮者に転進し、活躍したのだそうです。
一方 ジャーヌ・エヴラールは、夫が指揮者になってから自分も小さなアンサンブルを組んでいましたが、これが室内オケに発展、1930年代から指揮をとるようになって、のちに女性だけのオケを設立、パリで大変な評判となったとのことです。
さらには現在活躍中のヴァイオリニスト ジェラール・プーレは彼らの息子!
目からうろこでした。
まだまだ知られざる有名人がいるものです。
特に日本では録音が紹介されないと、なかなか名が知られないところがありますからね。
さてエヴラール指揮の曲目は、リュリの序曲とダンスリー、クープランの第3ルソン ド テネブレ、ダレラック:弦楽四重奏曲第3番、ルーセル:シンフォニエッタ。
この曲目、やはりよくわからないところがありますね。
しかし、古典時代フランスのダレラックの曲は大変美しい曲 (弦楽合奏による)。この曲どこかで聞いたことがあるのですが、思い出せません…。
ルーセルは彼女が依頼し、彼女らが初演した曲。これは1956年の放送用録音らしく、他とは違って録音はかなり鮮明で、彼女らの実力がよく聞き取れます。
今の感覚から言えば決してうまいとはいえませんが、まぁ 結構しっかりした合奏です。
一方クープランはもう、過去の遺物という感じ。クープランとは思えない代物です…。古楽受容史の貴重な資料というところでしょうか。
音楽的な満足度は高いとまではいきませんが、大変ユニークなCDを持つことができて、大変喜んでいます。
2週間、ごく安価でも売れなかったことはホントにツイてました。