ベートーヴェンの交響曲の中で私が最も好きなのは、第6番「パストラーレ」。
その中でも第2楽章:アンダンテ モルト モッソ。
これは本当に特別で、折に触れ この楽章だけ取り出して聞いています。
わけても再現部に入る部分。
夢幻的というか、夢の世界に入り込んでの幸福感みたいなものがあるように感じます。
管楽器とヴァイオリンで次々と現れる上昇音形は、まるで色とりどりのエンドルフィンの泡のよう。
弟子シントラーによるベートーヴェンに関する証言は信用ならない代物ということですが、彼の証言によるこの楽章の作曲についての有名なエピソード、すなわちハイリゲンシュタットとグリンツィング村の間の谷での あの美しい逸話。
この美しい再現部を聞くと、あの話は本当であったに違いないと感じてしまいます。
この楽章のコーダで、サヨナキドリ (フルート)、ウズラ (オーボエ)、カッコウ (クラリネット) が鳴くことは有名すぎるほど有名ですが、この楽章はあちらこちらに鳥や虫の鳴き声ではないかと思われる音形がありますよね。
再現部の開始部分でも何かが鳴いているのはご存知でしょうか。
オーボエがFの音を7つ続けて奏します。続けて4セット。
鳥? カエル? ヒグラシ? 何かが鳴いています。
コーダの3種の鳥はベートーヴェンが冷静に耳を澄まして聞きとったという感じですが、再現部のこの音は感動の恍惚感の中で、脳内に入り込んできたものという感じ。
素敵です。
これはノリントン指揮 シュトゥットガルト放送響のCDを初めて聞いた時 気づきました。
大好きな部分に知らない音があるものですからビックリ。
おそらく新しい校訂版であるベーゼンライターの楽譜を使用しているからなのだろうと思いながらも、一応当時持っていたCDをチェック。
ベーム=WP、バーンスタイン=WP、ワルター=WP、ワルター=コロンビア響、シューリヒト=OSCC、そして古楽器のガーディナー=ORRも やはり聞こえない。
ところがベーゼンライター版発表前の録音であるブリュッヘン=18世紀oは かすかに聞こえるではありませんか!
さらに 古いアンセルメ=スイス・ロマンドo、クリュイタンス=BP2種でもかすかに!
その後 入手したベーゼンライター使用のジンマン=ToZでも聞こえました。
さらに朝比奈=大阪po (85年LIVE)、カラヤン=BP (83年) 、ビーチャム=RPO (51,52年) 、テンシュテット=LPOもかすかながら。
ノリントンは極端に目立たせていたわけですね。スタッカート気味にはっきりと、しかもクレッシェンドしてすぐにデクレッシェンドするという懲りよう。
同じベーゼンライター版のジンマンも、クレッシェンド・デクレッシェンドしていますので (ただしデクレッシェンドの部分は聞きとれない)、これはベーゼンライター版ならではの指示なのかも知れません。
発見当時 ブログで書いたのですが、この音に気づいていた人はいませんでした。
ノリントン盤を聞かないと、なかなか耳に留まる音ではないですからね。
楽譜を持っている方が、「3, 4拍目にファースト・オーボエのFの音。ちなみにセカンド・オーボエは別の音を同じリズムで吹いています。」と教えてくれました。
聞こえない録音の指揮者は、邪魔な音として省いてしまっているのでしょうか。
なお、ノリントンによるこの楽章、再現部だけではなく、開始の第1主題がクラリネットとファゴットで繰り返される部分 (0'30くらいから) のヴァイオリンのトリルで、その最初の音を高くし それを少し保ったあと、通常のトリルに入るかと思ったら、またそれを充分にテヌートするというところで まず驚かされます。
ノリントン=シュトッガルトのベートーヴェン*交響曲全集は発売当時日本でもおおいに話題になりましたが、やはり興味深い録音ですね。