- いろとりどりの歌 第49曲「みちのくの」
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2012.07.31 Tuesday
現在 オリンピックの真っ只中。毎夜 TVにかじりついています。
昨晩も男子体操団体のライブ中継を最後まで見ており、就寝は3時半を過ぎてしまいました。
後半 まぁ 銀は間違いないだろう と思って見ていたのですが、最後 内村のあん馬の、最後数秒の崩れ!
オリンピックという特別な舞台の恐ろしさをまざまざと見せつけられました。
なんとか銀メダルを取ることができましたが、どちらにせよ微妙な差でしたよね。メダルを逃したウクライナ、気の毒でした。
筋書きがなさ過ぎるドラマにハラハラドキドキです。
頭はオリンピック一色になっておりまして、CDをじっくりと聞いてオススメコメントも書く余裕もなく…。
この百人一首シリーズも 平安時代へのタイムスリップがすんなりといきませんが、なんとか切り替えましょう。
第49曲 第十四番
≪みちのくのしのぶもぢずり誰(たれ) ゆゑに乱れそめにし我ならなくに≫ 河原左大臣 (古今集・恋)
「しのぶもぢずり」は昔から多くの説があるらしいのですが、現在の福島県信夫(しのぶ)郡で作られていた摺り衣のこと とするのが最も有力な説とのことです。
摺り衣は 草木の茎や葉を布に擦りつけて染めるので乱れ模様になることから、「乱れ染め」を言い起こす序詞とし「乱れ初め」とかけて下に続けています。
− 陸奥の国のしのぶもじずりの乱れ模様のように、私のあん馬の演技は最後 乱れてしまったが、私のせいではなく、オリンピックの重圧、エースとしての重圧、観客のイギリスへの声援のうるささ、演技開始までかなり待たされたことなどによるものなのだ −
… 違いますね。内村の歌ではない。
= 陸奥の国のしのぶもじずりの乱れ模様のように、わたしの恋心は乱れているが、乱れ始めたのはわたしのせいではなく、あなたゆえなのだ =
詞書がないので 事情はよく判りませんが、浮気の言い訳にも聞こえますね。
「しのぶ」という言葉も、あなたの責めを忍ぶという意味を含んでいるのかもしれません。
この歌は早くから名歌として有名だったようで、「伊勢物語」初段の <春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れ限り知られず> は、この歌を踏まえて詠んだと記されています。
“昔男” は着ていた狩衣の裾を切ってこの歌を書いたとのことですが、この「みちのくの」もおそらく 乱れ模様の摺り衣を切ったものに書いて、相手に届けられたものなのでしょう。
源融(みなもとのとおる) は嵯峨天皇の十二男 (822-95)。従一位左大臣に至りましたが、死後 正一位を追贈されています。
河原院と呼ばれる邸宅に住んでいたことから 河原左大臣(かわらのさだいじん) と呼ばれました。
百年ほどのち 河原院の荒れた様子を歌った 恵慶の 「八重むぐら」 は第7曲で紹介しました。
それを書いた時は百首全部について書くつもりはなかったので、源融について結構詳しく書いてしまっています。よろしければ ご覧ください。
面白いのは 塩竈にしても しのぶもじずりにしても陸奥なんですよね。
当時、都とは違った 素朴な文化に対する 郷愁のような憧れがブームになっていたのでしょうか。