第51曲は第八十一番、四首ある夏の歌の最後のものを。
≪
ほととぎすなきつるかたをながむればただありあけの月ぞのこれる≫ 後徳大寺左大臣(千載・夏)
詞書 −暁聞郭公といへる心をよみ侍りける
= 明け方にやっと鳴いたほととぎす。声のした方を眺めたが 姿は跡形もなく ただ有明の月が空に残っているばかり =
ホトトギスはカッコウ科の鳥。姿もカッコウとよく似ています。
鳴き声はカッコウ同様、他の鳥と間違うことのない 特徴的なもので、キョッキョ キョキョキョキョと甲高く 強く鳴きます (「特許許可局」あるいは「てっぺんかけたか」なとど聞きなされます)。
あまり情緒的ではないようにも思えるのですが、朝方に鳴くのがよかったのでしょう。日本では古来より芸術作品に登場し、親しまれています。
特にその年初めて聞くホトトギスの鳴き声は忍音
(しのびね) といって愛されました。「枕草子」ではホトトギスの忍音を人より早く聞こうと夜寝ずに待つ様子が描かれています。
この歌は、ホトトギスを歌った歌の中で最も優れたものとして昔から評価が高いようですね。聴覚から視覚への転換の妙が指摘されています。
後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん) 藤原実定(ふじわらのさねさだ) は平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての公卿・歌人 (1139-1191)。右大臣公能
(きんよし) の子。母は藤原俊忠の娘 豪子。俊成の甥、定家の従兄にあたります。
祖父の実能
(さねよし) が徳大寺左大臣と呼ばれていたため、それと区別するために実定は 後徳大寺左大臣と称されました。
非常な蔵書家で 学才豊か、また管弦や詩歌にも優れていました。「歌仙落書」には「風情けだかく また面白く艶なる様も具したるにや」と評されているとのこと。また「平家物語」「徒然草」「今物語」などに逸話を残しています。
家集は「林下集」。千載集初出、勅撰集には七十九首が入集しています。
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以前 メルマガで書いたことがありますが、カッコウ、ホトトギス (同じカッコウ科のツツドリ、ジュウイチも) が、珍しい独特の習性を持つのをご存知ですか?
“托卵”という習性。卵の世話を他の種類の鳥に任せることです。
カッコウ科の鳥は自分で子を育てることをしないのです。
卵を抱いている他の鳥が巣を離れるところを見計らって、その巣に卵を産むのです。
その後の巣立ちまでのメカニズムがまたオドロキ。
カッコウ科のヒナはたいてい親鳥の本来の卵より早く孵化するんです。
そしてなんと、そのヒナは 本来の卵を皆 巣の外に落としてしまう!
目も開いていない、毛も生えていない、生まれて間もないヒナが おぼつかない、たどたどしい動きで後ずさりしながら、尻や背中を使って 他の卵を落とす様子は本当にショッキングです。
野性の世界に人間の情を持ち込んではいけない と充分理解していても、その映像を初めて見た時は恐れおののきました。
親鳥は唯一となった、他人の子に餌をやる。
いつしか自分より大きくなって、巣からはみ出そうになってもせっせと。
そしてある日、ホトトギスは礼のひとつを言うでもなく ササッと巣立っていくのです。
平安時代には ホトトギスがこんな習性を持つことは知られていなかったでしょう。
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8月20〜24日、甲斐駒ケ岳の山登りを予定しております。
「いろとりどりの歌」「♪Questo♪Momento♪」ともにしばらくお休みをいただきますが、またどうぞよろしくお願いいたします。