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♪Questo♪Momento♪ 第74番「庭の花盛りと夫婦のやりとりのすべて」
 フレデリック・ディーリアスの音楽といえば、高校生の時に バルビローリ指揮のLP (EMI) を購入するなど、早くから聞いていました。
 田舎や田園への憧れを喚起するようななだらかな曲想。ノスタルジー、けだるい雰囲気やメランコリー。
 しかしカチッとした起承転結や 派手な盛り上がりがなく、一種とらえどころのない感じもある。
 特別愛するようになったわけではありませんでしたが、ずっと気になる存在であり続けました。
 CD時代最初期にはビーチャム指揮の2枚組CD (英EMI) を購入。バルビローリのLPとともに いまだに持ち続けています。

 しかし このコーナーで取り上げるとなると、正直 これという決め手がないと感じていました。
 ところが先日、ビーチャムのCBS時代のモノーラル録音3曲を集めたCDが入荷し、それを聞いていて、「夏の庭で」こそ愛すべき曲だと☆
 実はこの曲、バルビローリのLPの一番最初に入っている曲なんですね。
 高校時代にはピンときていませんでした。

 幸いネットでフルスコアを見ることができました。季節が合わないのが残念ですが ---

 「夏の庭で」 1908年作曲 09年改訂

 開始、アンダンテ (静かな動きで)。木管による優しい、短い序奏の後、弦楽の伴奏に乗せてオーボエがノスタルジーを掻き立てる ひなびた感じのメロディ。フルート、コールアングレに引き継がれた後、木管各種が鳥の鳴き声のような G-F-F-G-D という音形を盛んに奏する。まずここが好き!
 あたしゃ 木管による鳥の鳴き声の (ような) 音が好きですね。



 フルートによる民謡風のフレーズ。人のおしゃべりのようにも聞こえる。弦楽によって少し高揚。フルートと弦楽による まるで言い争いのような、スケルツァンドなやりとり。
 その後、「とても静かに (遅すぎずに)」(ビーチャム盤 4'30〜) からヴァイオリン抜きの弦楽による なだらかな、メロディアスな歌。フルートを中心とした木管の分散和音風のフレーズの繰り返しにのせて。
 

 眠りを思わせるような。さっきのスケルツァンドな音楽のと対比もあって、ここも心をグッと捉まれる美しいシーンです。ホルンが入るところも素敵。
 ヴァイオリンが入るところで 少し高揚します。

 そのあと落ち着いて「ミステリアスリー」 (7'00頃〜) 。またスケルツァンドな音楽に。「アニマート ポコ ア ポーコ」でトゥッティによってかなり激しい動きとなり、大きく盛り上がります。途中からグロッケンシュピールが加わるのも印象的。
 その後 落ち着き(余談ながら、ビーチャムの録音では ア テンポの前 ラレンタンドの部分で、ちょっとした物音が入っています。椅子・譜面台・指揮棒を想起させ、ビーチャムが出してしまった音ではないかと)、その後 半音階的な動き。アンニュイな、ちょっと不思議な雰囲気。

 少し盛り上がったあと、「トランクィッロ」(10'00頃〜) の管楽器による A-G-A-G という反復音から また穏やかに。
 冒頭に盛んに現われた鳥の鳴き声のような音形が再帰します。
 しかし その後 クラリネットなどの H-G-D-H-G-D という まるでオペラでのコミカルな動きを表わすフレーズ。

 オーボエのひと鳴きから「徐々に遅く、より穏やかに」(11'55頃〜) 。まるで自然が眠りにつくように、おとなしくなっていく。ヴァイオリンの下降音形 E-D-H の反復によって促されて。
 最後は消え行くように。鳥の鳴き声のようなフルートもかすかになって…。

 ただ単に穏やかな自然描写風なのではなく、人間を思わせる動きがあるような気がします。その変化が面白い。
 画家だった妻イェルカと住んでいた パリ近郊 ロワン河畔グレ村の邸宅の広くて美しい庭。
 その自然の細やかな動きとともに、彼らの生活が描かれているように感じるのです。

 曲は妻に捧げられています。
 「すべてわが花盛り、春と夏が歌っている間に愛の甘い花盛りのすべてを汝に与えよう」
 スコアに掲げられた言葉。ヴィクトリア朝後期のイギリスの詩人ダンテ・ロゼッティのソネットとのことです。
 浮気に精を出さずにはいられない愚かな作曲家に、悩まされながらも献身的に尽くしてくれる妻への感謝であったのではないでしょうか。

 それにしても、ディーリアスの音楽というと イギリス的と なんとなく感じてしまいますが、彼はドイツ人で、ほとんどフランスで過ごしたのですね。イメージのいい加減さを感じずにはいられません。
author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 12:27
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