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♪Questo♪Momento♪ 第76番「ソネマとグレンのエンケレセ」
 先日 入荷した 曽根麻矢子のイギリス組曲第2,3,6番 (ERATO)。
 今では押しも押されもせぬ日本を代表するチェンバリストである彼女ですが、これは記念すべきデビュー録音。
 1986年のブリュージュ国際チェンバロ・コンクールに入賞し、審査委員だったスコット・ロスに認められて 師事 (ロスは89年に死去)、90年以降パリで活動していた彼女。まだまだ駆け出しであった1991年の録音です。とはいえ さすがにぽっと出のアイドル演奏家とは一線を画しており、生硬さはありません。

 このアルバムには思い出があります。かなり前 メルマガで書いたことがありますが、改めてブログで。
 海外盤には “丸C1992” とありますから 1992年に発売されていると思いますが、国内盤は1994年1月発売。1年以上のブランクがあったのですね。なぜでしょう?
 ともかく、私は当時 グレン・グールドの録音によって、ちょうどイギリス組曲にハマッていました。そんな時 かわいこちゃんによるイギリス組曲がデビュー盤として出たものだから、お熱を上げてしまいました。国内盤・海外盤 両方買っちゃったりして。

 なお 国内盤はべっぴんさんの彼女の姿を配したジャケットデザインでしたが、海外盤はトーマス・ゲインズバラの絵。その代わり 裏表紙にパーマ髪の彼女のアップがあります。

 私は当時、今はなき 大阪梅田の大月楽器店で勤めていたのですが、なんと曽根さんが販売促進キャンペーンで来店されるというではありませんか!
 イギリス組曲への愛着が聞けると楽しみにしていました。

 さて当日。私はCDにサインをしてもらい、そして ふたりでお話ができました。

 私= より有名なフランス組曲ではなく、なぜイギリス組曲を選んだんですか?
 麻= 本当はフランス組曲を録音したかったんですけど、プロデューサーに言われて。(ガクッ!)
 私= イギリス残り3曲の録音予定は?
 麻= 今のところありません。(ガクガクッ!)

 駆け出しの演奏家に 曲を選ぶ権利なんてないのですね。
 彼女は 2003,04年、イギリス組曲全曲を録音しますが (AVEX)、その初録音の時のことがライナーノートにチラッと書いてありました。

 「私もイギリス組曲が大好きで、特に第1番が好きなんです。第1番を含む 残りの3曲の録音を期待しています。」という言葉で会話を締める予定でいたのですが、脆くも崩れ去り、余計なこと聞いてしまったかなと、少し後味の悪い思いをしたのです。
 しかし 最後に一緒に撮ってもらった写真は今も大事にしています。 かなり色褪せてしまいましたが。
 曽根さんは背が高くてスラっとした、やはり美人でした。しかし CDジャケットの写真にみる清純な印象とはまったく違っていて、サバサバとしていて、むしろ モデルのようにかっこいい感じでした。
 清純派では厳しい世界 やっていけないわな、と納得。
 しかし 同じ頃 来店された仲道郁代さんはイメージ通りのお嬢様って感じでしたが。(おっかけが数人ゾロゾロ付いて来ていたのにはビックリでした。)



  イギリス組曲第1番イ長調 BWV.806
(前奏曲,アルマンド,クラントI、クラントIIと2つのドゥブル,サラバンド,ブレー,ジグ)

 この6曲からなる曲集の成立などに関して確かなことは少ないようです。作曲された時期は 他の鍵盤楽器曲の中では早いほうではないかと。1720年代の前半とすれば、バッハ35〜40歳というところでしょうか。
 イギリス組曲というタイトルは、バッハの最初の伝記作者J.C.フォルケルが「イギリスの貴族のために作曲された」と記していることによるもので、18世紀の間にすでに定着していたとのことです。しかし それについても確かなことかは分からないようです。

 6曲のうち 長調は第1番と第4番のみ。ERATOのプロデューサーが短調の3曲を選んだというのは分かります。ドラマティックでカッコいい。
 しかし 私は昔から第1番が好きでした。

 第1番は この曲だけ別の場所に筆写されているものがあることなどから、他の5曲とは異なる成立過程を持つのではないかという推測もあるとのこと。曲想からしても頷けるところ。

 曲は指馴らしのようなカデンツァで始まります。明るく優雅な曲調。その後 曲想の変化はあまり大きくなく、気軽で喜ばしい気分。
 2つのクラント (とドゥブル) はアルマンドの派生みたい。
 まどろみのように穏やかなサラバンドの次は、快活に跳ねるブレーI。
 ブレーIIはその派生でありながら 曲中唯一 短調で、スパイスになっています。
 そして最後、再び快活なジグ。このジグはデュパール、ル ルーのジグとの類似が指摘されているとのことです。

 第1番が好きになったのは、グールドの闊達な演奏を最初に聞いたからこそだと思います。最初がチェンバロ演奏だったら 好きになったかどうか分かりません。
 わたしの世代はバッハの鍵盤楽器曲はすでにグールドが定番。まずグールドで曲を覚えましたので、その演奏がいかに独創的で、表情豊かで 楽しいかは、その後 他の演奏を聞いてから知ったようなものです。

 「ここが好き!」は選べないと断念しかけましたが、サラバンドを。
 快活な曲ばかりではなく、ここでもグールドの演出は素晴らしいんです。

author:, category:♪この曲の♪ここが好き♪(百曲一所), 22:56
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