店名の「ファルスタッフ」は、イタリアの偉大なオペラ作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの最後のオペラからとりました。
騎士ながら大酒飲みで豪快な放蕩者・悪党、それでいて機知に富み、愛嬌があって憎めないデブの老人、、、
このキャラクターが大好きなのです。
念のために書いておきますが、もともとは「ヘンリー4世」、「ウィンザーの陽気な女房たち」に登場する、シェイクスピアが創造したキャラクターです。
さらに蛇足ながら、シェイクスピアでは“フォルスタッフ”、あるいは“フォールスタッフ”と表記され、“ファルスタッフ”は伊語読みです。
−居酒屋を宿としてごろつきの従者ふたりを従え、一日中酒をくらいながらわるだくみばかり考えているファルスタッフ。
金持ちの美人妻アリーチェとメグを誘惑してふたりからすべてをいただいちゃおうと考えたファルスタッフは、彼女らにラヴレターを送るが、ふたりは友達。同じ文面であることに腹を立てたふたりに、ファルスタッフは懲らしめられる … −
一見、たわいもないドタバタ喜劇。
しかし最晩年のヴェルディの書いた音楽の素晴らしさときたら!
全編レチタティーヴォの派生みたいで、一般受けしそうなメロディアスなアリアなんかはほとんどないのですが、そうしたことを犠牲にして代わりに得られたものは、より自然な時間の流れ、より自然な会話、より自然な感情表現。管弦楽部は登場人物の動作や心の動きにピッタリとくっつき、それらを見事に表現しています。
それはモーツァルトの「フィガロの結婚」のふたつのフィナーレを思い起こさせます。
ヴェルディは最晩年、モーツァルトの天才に限りなく近づいたのだと、わたしは考えています。
さらには、人生をかけてオペラ悲劇を追求してきた作曲家が老いを得、最後に市井(しせい)の機微を生き生きと愉悦的に描いた喜劇を創ったことが素敵。
−この世のすべては冗談 人は生まれついての道化
頭の中で道理はいつも混乱している
みんな阿呆! お互いの馬鹿を笑い合う
でも最後に笑う者こそ よく笑う者なのだ−
*訳は大変難しいのですが、大胆に訳してみました。
悲劇を追求してきた作曲家が、最後のオペラのその最後に、精緻にして輝かしいフーガを置いて、登場人物全員にそう言わせているのです。(台本を書いたボーイトも讃えておかないと片手落ちになりますね。)
なんと意味深いことでしょう。
フリードリヒ・ニーチェは「道徳の系譜」でこう言っています。
−あらゆる芸術家がそうであるように、悲劇作者もまた自分と自分の芸術を足下に見下ろすことができるとき、自分を笑うことができるとき、初めて彼の偉大さの最後の頂点に達する−
この感動的で、味わい深いオペラ。
でも最初聞いた時はさっぱりわからなかったのです。
しかしのちに映像でヴェルディの意図が見えた時(ジュリーニ=コヴェント・ガーデン、ブルゾンのLDでした)、その真価を感じました。
もしまだ「ファルスタッフ」を聞いたことがない方には、まず映像で見ることをお奨めします。
本来ファルスタッフは Falstaff。でも当店は Falstafff。
これは、Falstaff ではドメインが取得できなかったための苦し紛れでした。
でも 3つのf、フォルテッシッシモ=できるだけ強く、みたいで面白いかなと。
f はわたしの苗字の頭文字でもあり、今ではとても気に入ってます。