- 第66回 NHKニューイヤーオペラコンサート
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2024.01.04 Thursday
正月2日恒例「NHKニューイヤーオペラコンサート」を見ました。
今年の司会はアナウンサーひとりで、盛り上げ担当のタレントなども使わず、なにやら暗い雰囲気。
「対の歌声、終わらない世界」をテーマとし、清らかさと醜さの両面をあわせ持つ人間の二面性を見事に描き切った傑作オペラの名場面を聞かせるとのこと。
オープニングはヘンデルの「メサイア」の「ハレルヤ」を吉松隆らがポップに編曲した合唱。なんでオペラではない曲を… と思っていたら、続けて「ハレルヤ」の少し前にあるバスのドラマティックなアリアが。
「なにゆえ もろもろの国びとは騒ぎたち、もろもろの民はむなしい事をたくらむのか…」
キリスト教の音楽とはいえ、テキストは「イザヤ書」など旧約聖書からとられ、「メサイア、ハレルヤ」はヘブライ語。
なんとなくパレスチナの戦争を思わせるなと感じました。
その後「清きアイーダ」をはじめとする4曲が歌われたあと、ヴェルディ:「オテロ」の「無慈悲な神の命ずるままに」(イャーゴ) と、プッチーニ:「トスカ」の「テ デウム」(スカルピア) という悪のたくらみの歌が。
第2部に入ると ムソルグスキー:「ボリス・ゴドゥノフ」の「私は最高の権力を手に入れた」(ボリス) と、ヴェルディ:「ドン カルロ」の「ひとり寂しく眠ろう」(フィリッポII世) が歌われます。
ボリスは「自分は権力を手に入れ6年の間、国を無事治めてきたが心に幸福はない。クセーニヤの許婚の急死、大貴族の裏切り、外国の陰謀、飢饉や疫病が続き、全ての罪が自分にあると国中で怨嗟の声が上がっている」と歌い、フィリッポは「私は王家のマントでひとり眠ろう、私の人生の夕暮れを迎えるとき。黒い丸天井の下でひとり眠ろう、霊廟の墓の中で」と。
権力者の苦悩と孤独、死の予感。
ここまでくれば、裏テーマとしてロシアとイスラエルの為政者批判があるに違いないと。
そして最後、モーツァルト:「ドン ジョヴァンニ」の地獄落ちの場面。
「悪党よ 悔い改めよ 生き方を変えるのだ!」と迫る騎士長の石像 (亡霊) の要求を拒否したドン ジョヴァンニは、激しく暴れる炎に巻き込まれ、奈落の底に突き落とされます。
その後 フィナーレ、ドン ジョヴァンニ “被害者の会” による六重唱 (の後半部分)。
「これが悪事をなす者の最期、不誠実な者の死はそれ相応のものとなる」
そして最後に「ハレルヤ・コーラス」が今度はオリジナルで、もとい、モーツァルトが管弦楽を豊かにした版で高らかに歌われ、悪の為政者なきあとの輝かしい平和な世界が暗示されてコンサートは終わります。
NHK渾身の演出といえるでしょう。
ところがです。地獄落ちの場面で、能登地方に余震が起こったことを知らせるテロップが入るではありませんか。
もう一度、最後の「ハレルヤ」でも。
なんという皮肉なタイミングでしょう。
悪の為政者の不敵な笑み、嘲笑いが思い浮かびました。